Jリーグ観察記BACK NUMBER
FWから始めよ。
~ジュビロ磐田、復活の条件~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2009/06/07 06:00
那須大亮を軸とする磐田の4バックもようやく安定感を増してきた
デルボスケがスペイン代表監督に就任する直前、インタビューをした際に、こんな質問をぶつけたことがある。「いいチームを見分けるには、どこを見ればいいですか?」と。
リビングに飾られた欧州チャンピオンズリーグの“ビッグイヤー”(優勝杯)のレプリカを前に、デルボスケはこう答えた。
「守備の始まりと、攻撃の始まりを見なさい。たとえばFWがどうやって守備をしているか、DFがどうやって攻撃を始めるかをね」
ナビスコカップの浦和対磐田を見ていたら、ふとこのデルボスケの言葉が思い出された。
特に「守備の始まり」という部分を。
なぜなら、浦和が“守備の始まり”にこだわりを持っているのに対し、逆に磐田は“守備の終わり”にこだわりを持っていたからである。そして、その違いが、現時点での大きな成績の差になって表れていた。
ジュビロの4バックは、下味がいい加減なスープだ。
この2チームには、共通点がある。昨季は3バックを採用していたが、今季は4バックに移行した――ということだ。
磐田の4バックだけを見ていると、那須を中心に、いかにラインコントロールに力を注いでいるかがわかる。ボールが敵陣方向に動けば、ラインを上げる。相手が前を向いてボールを持てば、ラインを下げる。実に細かい。
だが、悲しいかな、その動きが中盤から前の動きと連動していないのだ。まだ磐田は組織として発展途上で、どこからプレスをかけるかはっきりしていない。FWとMFが前に行き過ぎてしまったり、逆に行かなかったり。DFライン(=守備の終わり)が1、2メートルのラインコントロールをしても、前線があまりにも大雑把なので生かされていない。下味がいい加減なスープに、いくら隠し味を足しても限界がある。
似て非なるレッズとジュビロの4バック。
一方、浦和は全く別のアプローチをしている。
合宿中からDFラインの細かなコントロールは諦め、いかにFWやMFが前からプレスをかけられるか(=守備の始まり)に重点を置いてきた。意図的なラインの上げ下げはしないので、オフサイドを取ることはほとんどできないのだが、裏を取られるリスクは減らすことができる。その結果、1-0の完封勝利の連続。後方ではなく、前方のディティールから作り上げたことが功を奏した。最近ではDFラインにも余裕が生まれ、オフサイドを取れるようになってきた。
両者のうち、現段階でより勝ち点を稼いでいるのはどちらか? リーグ戦で浦和は2位、磐田は9位。ナビスコ杯のA組で浦和は1位、磐田は敗退が決定した。4バック移行後、早く結果に結び付けられたのは浦和のほうである。
デルボスケの至言にジュビロ躍進のヒントが。
FWイ・グノの加入後、磐田はJリーグで劇的に復活したが(ちなみにこの浦和戦は、イは代表戦のため不在)、シーズン序盤に苦しんだのは、守備の“始まり”と“終わり”の不整合に原因があったからだろう。4バックが安定してきた今、今度は前と後ろの守備を融合することが求められる。
「守備の始まりが大事」
今後、磐田がさらに上を目指すためには、デルボスケの言葉がヒントになるのではないだろうか。