オリンピックPRESSBACK NUMBER
混迷のフィギュア界を総括する。
五輪へ向けた観戦ポイント完全解説。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byKYODO
posted2009/12/11 10:30
キム・ヨナ(中)が有終の美を飾った今季GPシリーズ。とはいえシリーズ後半には、そのキム・ヨナでさえプレッシャーで調子を落としていた
無難にまとめた安藤も「3回転+3回転も試合に入れたい」。
また女子の状況も似ている。
今季の安藤美姫は4回転へのこだわりを捨てた。そしてあれほど得意だった連続ジャンプも3回転+2回転に抑えて全体を無難にまとめ、ロシア杯、NHK杯を連覇。GPファイナルでは銀メダルを手にした。だがその安藤も、「これからはやはり3回転+3回転も試合に入れたい。やっている選手もいますから」と試合後に語った。
「やっている選手」とは、もちろん現在、女子の世界最高スコアを保持するキム・ヨナのことだ。キム・ヨナの3回転ルッツ+3トウループの質の高さは、トップクラスの男子並みである。GPファイナルのショートプログラムでは、珍しく3トウループが回転不足の判定となった。それでも9人中8人のジャッジがプラスのGOE(技の質の評価)をつけている。回転が不足でも、スピード、高さ、飛距離など、全体的な質はとても高かったということだ。
「トリノ五輪の荒川選手と同じ色のメダルが欲しい」という安藤にとって、キム・ヨナに打ち勝つには3回転+3回転は欠かせないだろう。やらなければ、相手のミスを待つ状況になる。
浅田がキム・ヨナに勝つためには3アクセルの成功が不可欠。
ファイナル進出を逃した浅田真央が、3アクセルという大技にこだわり続けるのも、やはりキム・ヨナの存在が大きいからに違いない。彼女がいなかったら、浅田の才能を持ってすれば8割くらいの力で滑っても優勝できる可能性はあった。だがキムがいる限り、全力を出し切らなくては頂点にはたどり着けないだろう。
この採点方式になってから、大技よりも技の質という傾向は年々高まりつつある。だがその両方を兼ね備えた選手が出てくれば、勝つためには難易度も質も、両方グレードアップさせていくしかない。その存在が男子ではプルシェンコであり、女子においてはキム・ヨナなのだ。
GPシリーズはあくまでも前哨戦。五輪は五輪で別物。
五輪という大舞台に出たときに、自らメダルを取りに行くのか、無難にまとめて相手のミス待ちをするのか。それは各選手たちと、コーチの戦略にかかってくる。滑走順も大きく影響してくるだろう。
GPシリーズで各選手の現在の状況は見えたものの、五輪は五輪。やはり違うレベルでの試合になるだろう。まだまだシーズン後半にはサプライズが待っているに違いない。