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混迷のフィギュア界を総括する。
五輪へ向けた観戦ポイント完全解説。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byKYODO
posted2009/12/11 10:30
キム・ヨナ(中)が有終の美を飾った今季GPシリーズ。とはいえシリーズ後半には、そのキム・ヨナでさえプレッシャーで調子を落としていた
東京代々木体育館で開催されたグランプリファイナルを最後に、今季のGPシリーズが終了した。バンクーバー五輪に向けての前哨戦が、これで一応終了したとも言える。
今季のGPシリーズは、番狂わせの連続だった。
初戦のフランス杯では元世界王者のブライアン・ジュベールが表彰台を逃し、ロシア杯では浅田真央が5位に。NHK杯では高橋大輔、小塚崇彦がいずれも表彰台からもれ、GPファイナルでは五輪メダリスト候補のジョアニー・ロシェットが6人中5位に終わった。
トロント在住のコーチで、国際スケート連盟テクニカルスペシャリスト(技術判定委員)の資格を有する天野真は、こう分析する。
「今の採点システムでは、一つ一つの技の質を高く演じることが要求される。同じジャンプを跳んでも、エッジや回転不足など厳しく見られるようになったので、選手にとっては完成度の高いものを演じなくてはという精神的な負担が以前よりも大きいと思います」
五輪シーズンのプレッシャーに加え、技の完成度が勝敗を左右する傾向が強くなった現在の採点システムに、選手たちがまだ精神的、体力的に順応しきれていないということだ。以前のように、大技さえ成功すれば勝てるというような、わかりやすさが薄れてきたことは間違いない。
プライドと五輪の頂点をかけて、高橋は4回転に挑む!
今回のGPファイナルに出場した男子6人中、表彰台の上に上った3人はいずれも4回転に挑んでいない。優勝したエヴァン・ライサチェク、2位の織田信成は、好調時には4回転を跳べる選手だが、今回は挑まずに全体をまとめることを選んでメダルを手にした。
一方フリーで4回転に挑んだ高橋大輔、ジェレミー・アボット、トマーシュ・ベルネルの3人はメダルを逃した。4回転を取り入れることが、どれほどのリスクか、体力的、精神的な負担になっているかの証明である。
高橋大輔はフリーの最初の4回転で転倒。激しく氷の上に叩きつけられ、その後も本来の力を出せないまま総合5位に終わり、こう語った。
「今回は失敗したけれど、やはりスポーツなのだから4回転を跳びたいという気持ちはある。この試合のことだけではなく、先を見据えてここで挑戦しておくことが大切でした」
無難に全体をまとめていれば、SPで1位だった高橋は表彰台の上に残っていただろう。だがアスリートとして高橋は4回転へのこだわりがある。個人的なこだわりだけでなく、実際に五輪という大舞台で頂点に立つためにはおそらく必要になるだろう。このGPファイナルに来ていない、大物と戦うことになるからだ。
今季復帰してきたロシアのエフゲニー・プルシェンコは、ロシア杯でSP、フリーともに4回転+3回転を完璧にきめた。表現力も申し分ないベテランである。ソルトレイクシティ五輪で銀メダル、トリノ五輪で金メダルを手にしているだけに、大舞台で動揺しないだけの経験も持ち合わせている。安全圏内でまとめるという作戦は、彼には通用しないことを高橋は痛感しているのに違いない。