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フィギュアGPファイナル 「交錯した4つの運命」 ~五輪代表の座を巡る死闘~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMichi Ishijima/Atsushi Hashimoto
posted2009/12/15 10:30
ほぼ満員の観客で埋め尽くされた東京・代々木第一体育館は、いつにない緊張と高揚感に包まれていた。はらんだ熱気は、上着を不要とするほどだった。
グランプリシリーズ全6戦の上位6名のみが出場できるファイナルは、いつにもまして、張りつめた空気が流れていた。
今シーズンはオリンピックイヤーである。日本から出場する4人の選手にとっては、「表彰台に上がり、日本人最上位」であればオリンピック代表に内定する場でもある。いつものグランプリファイナルとは様相が異なるのも無理はなかった。
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この試合の位置づけをどう考えるか、そして思考力、呼吸、体の切れ、すべてに影響を及ぼす緊張にいかに対処するかを、選手たちは問われることになった。
高橋は存分に「攻めてアピール」しSPでトップに立ったが……。
高橋大輔にとってのグランプリファイナルは、10月にフィンランドでの大会で復帰後、4戦目である。怪我による昨シーズンのブランクから、ようやく試合勘を取り戻しつつある中での出場であったこの試合のテーマは、「攻めてアピールすること」だった。
ショートプログラムは3番目の滑走。高橋の前のジョニー・ウィアー(アメリカ)は会心の演技で高得点をマークし、会場はスタンディングオベーションに包まれていた。リンクに足を踏み入れると、闘志に火がついた。
「自分はもっとこの会場を沸かせてやる」
1カ月前のNHK杯では、「アピールしたい」という思いが空回りしたが、この日は違った。冒頭のトリプルフリップ、トリプルトゥーループの連続ジャンプ、さらにはトリプルアクセルを成功させると、勢いに乗る。
「滑っている中で、お客さんの顔も見ることができました」
存分にアピールすると、3つのスピンのうち2つはレベル4を記録。表現を問われる総構成点では、5つの項目すべてが8点台。終わってみれば、2006年トリノ五輪で金メダルのプルシェンコ(ロシア)が記録した90.66に次ぐ世界歴代2位の89.95で1位を獲得した。