北京をつかめBACK NUMBER
女子マラソン、残り1枠をめぐる思惑
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2007/11/30 00:00
北京五輪代表選考レースの第二弾、11月18日の東京国際女子マラソンは、野口みずきが大会新記録で優勝した。記録はもとより、難所の35kmから40kmで16分台をマークするなど、強さを存分にみせつけた走りだった。
日本陸上連盟が示したマラソンの代表選考基準は、「第11回世界陸上競技選手権大会(大阪)のメダリストの中で日本選手最上位者1名が代表。それ以外は各選考競技会の日本人上位の競技者の中から本大会でメダル獲得または入賞が期待される競技者」というものだった。
野口はアテネ五輪金メダリストであり日本記録保持者。今回のレース内容に対する陸連の高評価から考えて、世界選手権で銅メダルを獲得、代表に内定した土佐礼子に続き、切符を手にしたといってよい。
とすれば、女子マラソンは残り1枠。来年1月27日の大阪国際女子マラソン、3月9日の名古屋国際女子マラソンの結果で決まることになる。
現段階で、大阪に出場する可能性が高いとみられているのは、坂本直子、加納由理、原裕美子だ。
アテネ五輪に出場し7位、その後故障に悩まされ続けた坂本直子は、9月のベルリンで久々にフルマラソンを走り2時間28分33秒の5位。まずまずの調整ぶりをみせた。
加納は、今年1月の大阪で28歳にしてマラソンデビューした選手だが、2時間24分43秒の好タイムで3位に入り、2度目のマラソンとなった9月の札幌マラソンでは2時間30分43秒で優勝と、注目すべき一人。世界選手権でメダルを期待されながら、左太ももを痛めて18位に終わった原裕美子も、巻き返しを図っている。
名古屋出場が有力なのは、世界選手権6位の嶋原清子と、同23位の橋本康子。
そして、まだ態度をはっきりさせていない「大物」が、高橋尚子と、福士加代子の2人だ。
アテネで代表を逃した高橋は、当初、9月中には、どのレースに出場するか決めるとしていた。しかし、現段階でも決めかねている状態。「(北京五輪は)最後の挑戦」と語るだけに、慎重に見極めている。小出義雄氏は、「名古屋に出るのでは」と語っているが……。
トラックの第一人者、福士は、指導する永山忠幸監督が以前からほのめかしていたこともあって、マラソン転向が噂されてきた。本人は、「(北京五輪は)選択肢が多いですね」と語るにとどまっているが、出場すれば侮れない存在だ。
さらに、マラソン未経験ながら駅伝などで伸び盛りの20歳、大崎千聖も出場の意欲をもっている。
これらの顔ぶれから代表に入れるのはただ1人。熾烈な競争が繰り広げられるのは必然で、選考もたやすくはない。態度を決めかねる選手がいるのも、分からないではない。
振り返れば、女子マラソンの代表選考は、常に物議を醸してきた。
アテネ五輪代表を巡る騒動は記憶に新しいが、'92年のバルセロナ五輪でも、有森裕子が実績と経験を評価されて選ばれ、有森より好記録をマークしていた松野明美が落選した。'96年のアトランタ五輪は、東京で2位ながら、選考レース中もっとも速いタイムだった鈴木博美が涙をのんだ。'00年もまた、弘山晴美の落選の是非が議論になった。
例えば大阪、名古屋の両方で日本人選手が優勝した場合、その優劣をどうつけるのか。優勝者が出なかった場合は? 実績や経験をどこまで優先するのか、勢いに比重を置くのか。
各レースに異なるテレビ局がついているためにそれぞれを選考対象大会とせざるを得ないと言われる。それが選考を複雑にしている。今回も過去と同様にすっきりしない選考となるのだろうか。
いずれにせよ、抽象的な選考基準などものともしない、チャレンジ精神にあふれる選手の活躍を楽しみにしたい。