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トヨタの“小さな巨人”
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/10/24 00:00
「荒れたレースでラッキーもアンラッキーもありましたが、最終戦で表彰台。来年に対するハズミになります」
中国グランプリが終わって1時間弱、ラルフが今季初表彰台を得たトヨタのホスピタリティで、トヨタの高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクターはそう切り出していつも通り淡々とレースのレビューを始めた。
今年のトヨタは2戦目で初表彰台、アメリカで初ポールポジション。コンストラクターズ・ランキング3位のフェラーリは捉え損ねたが、ウイリアムズ、ホンダらをはるかに引き離す活躍。全19戦中17戦得点(88点)、2回ポールポジション、5回表彰台は昨年ランキング8位(9点)に終ったチームとは思えぬすばらしさだった。
さらにウナらされたのは、最終盤の日本〜中国2連戦に来年への橋渡し的マシンともいえるTF105“B”を投入したことである。日本時点ではまだフェラーリを越える可能性もあったが、あえてリスクを冒して改良型マシンを投入したのは、来年初勝利を得るための“データ採り”である。
そう書くと当たり前のように思われるがしかし、別な見方をすると2レースを捨て石に使うということにもなる。テストの最初からBを気に入ったラルフはともかく、トゥルーリは自分のドライビング・スタイルと違う挙動を見せると言って難色を示し続けたのだ。
中国・上海の予選が終った時、トヨタの採ったB先行投入戦略は不発、と誰もが思った。鈴鹿で今季初ポールポジションを奪ったラルフでさえ9位。上海から来ていっこうに治らぬアンダーステアを、口を極めて罵ったという。
「アンダーステアを治そうと思えば出来るが、そうすると決勝でのタイヤの持ちが悪くなる。そのギリギリの妥協点は見出せたと思っています」
予選終了後の高橋エンジニアの口調は重かった。2台入賞、できれば表彰台を公約とする彼も「表彰台は難しいかも……」と言っていたものだ。
だが、決勝でのラルフとBのコンビは一転、ピットインの際にフィジケラの故意のスピードダウンがなければ2位以上のリザルトもあったのではないか?と思わせる快走を見せた。タイヤのラバーが路面に載ってアンダーステアが消えたことに加え、1回目セーフティカー出動時に多目の燃料を入れ、2回目セーフティカー出動時にはピットインせず上位に浮上したとっさの戦略変更もよかった。
さて、一通りのレビューが終った後、高橋エンジニアは「今年限りでTMGを離れ、日本のモータースポーツ部に移ります」と挨拶。トヨタF1の立ち上げからすべてのレースに参戦しただけに感慨無量のものがあったろう。おそらく来年の初勝利を見届けたかったろうが目に涙はなく、日焼けした顔をいつまでもほころばすだけだった。
トヨタF1活動をカイゼンし続けた温和で煙草好きな小さな巨人の帰国は淋しいが「これからは後方でサポート役。トヨタF1の先行開発で頑張ります」という高橋エンジニアに、早く朗報が届くことを願わずにはいられない。