F1ピットストップBACK NUMBER
マクラーレンがレッドブルを猛追中。
カナダGPを制した、ある奇策とは?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/16 10:30
「一番」と「頑張れ日本!」という日本語が目立つヘルメットのジェンソン・バトン。昨年の中国GP以来、実に1年以上も遠ざかっていた優勝であった
カナダGPでは度重なるアクシデントに襲われたが……。
ただし、マクラーレンのアプローチが必ずしも間違いではなかったことは、第3戦中国GPのレース終盤にルイス・ハミルトンがレッドブルのセバスチャン・ベッテルをコース上で逆転したことが証明していた。その後もマクラーレンは第5戦スペインGPと第6戦モナコGPで、ポールポジションからスタートしたレッドブル勢をレース後半にテール・トゥ・ノーズで追いまわしていた。
第7戦カナダGPは、ポール・トゥ・ウィンという「従来の勝利の方程式」対「新しい勝利の方程式」がぶつかる興味深い戦いとなった。今季6度目のポールポジションからスタートして、レースをリードするベッテルに対して、5番手と7番手からスタートしたマクラーレン勢がどのような追い上げを見せるのか、注目が集まっていた。
レース序盤でマクラーレン勢同士が接触し、ルイス・ハミルトンがリタイアし、ジェンソン・バトンが早々にピットインを余儀なくされる。さらにバトンはその後もドライブスルー・ペナルティを受けたり、フェルナンド・アロンソと接触してタイヤをパンクさせる不運が続いた。レース中盤に最後尾に落ちた時点で、決着は持ち越されたかに思えた。
荒れ気味の展開なら最後尾からでも逆転は可能だと考えていた。
ところが、最後尾に落ちてもなお、マクラーレンのガレージの中には勝利をあきらめる人間はいなかったという。
それはカナダGPではセーフティカーが導入されることが珍しくなく、導入されるたびにトップとのギャップが縮まり、後方からでも逆転は可能だと考えていたからである。
そして、その言葉はレース終盤になって現実味を帯びてくる。
37周目に最後尾まで落ちたバトンだったが、55周目には4番手まで浮上してきたのだ。バトンが最下位に落ちた後、雨とセーフティカーによってレースが荒れた展開になったことが幸いしたことは言うまでも無い。
しかし、マクラーレンが浮上した最大の要因は、カナダGPのレース特性を見据えた空力仕様を持ち込んでいたことなのだ。それは、4番手に浮上したバトンがドライタイヤでだれよりも速いペースでトップのベッテルを猛追していたことで分かる。