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マクラーレンがレッドブルを猛追中。
カナダGPを制した、ある奇策とは?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/16 10:30
「一番」と「頑張れ日本!」という日本語が目立つヘルメットのジェンソン・バトン。昨年の中国GP以来、実に1年以上も遠ざかっていた優勝であった
他とは真逆のコンセプトでデザインされたリアウイング。
カナダGPが行われるジル・ビルヌーブ・サーキットは、ストレートをヘアピンとシケインでつないだ典型的な「ストップ・アンド・ゴー」タイプのサーキットである。しかも、バックストレートは約1kmと長く、今年から使用されるようになったDRS(可変リアウイング)はそのバックストレートと、ホームストレートの2カ所で使用が可能になる。そのため、多くのチームがストレート重視のエアロパッケージをモントリオールに持ち込んできた。
ところが、マクラーレンが採った作戦は、その逆だった。
リアウイングにペイントされた「vodafone」の文字がはっきりとわかるほど幅が広く、しかも立てられてあった。しかも、これはモントリオールだけの話ではない。マクラーレンは開幕戦から同じタイプのリアウイングを使用し続けているのだ。
多くのチームが、「DRSを作動させた時にできるだけ空気抵抗を軽減させる」方向でリアウイングをデザインしたのに対して、マクラーレンは「DRSが機能していない状態の時にしっかりとダウンフォースを発生させる」デザインにしているのである。
バトル中に最大のパフォーマンスを発揮すべくマシンをデザイン。
DRSは、予選時は自由に使用できるが、レースでは決められた区間で前車と1秒差以内になった時にしか使用できない。単なる速さを求めるだけの予選と本番のレースではおのずとその使い方も違ってくる。
マクラーレンは、前方に他車がいないタイミングで一周だけの速さを求める予選よりも、レースで他のマシンとバトルを繰り返している時に、マシンパフォーマンスをフルに発揮できるセッティングを目指してマシンをデザインし、レース戦略を立てているのである。そこには今年から新しくなったピレリタイヤの寿命がブリヂストンに比べて短くなったことが、大きく考慮されている。
とはいえ、オーバーテイクが難しいF1では、新しく採用されたDRSを使用した際にパフォーマンスが最大に発揮されるマシンを設計し、予選で前を取る戦略が定石であることは事実である。
それは今季ポールポジションを独占していたレッドブルのマシンを駆るセバスチャン・ベッテルが、第6戦モナコGPが終了した時点で5勝を挙げていたことでもわかる。