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ボロボロになっても闘った、
岡田ジャパン“タシケントの魂”。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byNaoya Sanuki

posted2009/06/08 12:10

ボロボロになっても闘った、岡田ジャパン“タシケントの魂”。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 タシケントは一瞬にして沸騰した。

 グリーンの服を身にまとったおびただしい数の警官と、熱狂的なウズベキスタンのサポーターで最上段までぎっしりと埋まったパフタコールスタジアム。一斉に立ち上がり、闇夜にむかって咆哮が上がった。

 相手の顔面をひじで突いたとして長谷部誠にレッドカードが出され、猛然とピッチに歩を進めた岡田武史監督が判定に不満を示すように右腕を大きなモーションで振り下ろしたとき、シリア人主審から退席処分を命じられたからだ。極端にウズベキスタン寄りに笛を吹いていた主審に対して、抗議とも受け取れるジェスチャーであった。

「闘え! 闘う気持ちを出しきれ、使いきれ!」という心の言葉。

 監督生活で初めて退席処分を受けた岡田は「主審に文句を言ったつもりはない。よっぽど私の表情が悪かったのでしょう」と苦笑いを浮かべ、スタッフも「監督は何も言ってないですよ」と異議を否定している。だけど、鬼のような形相で腕を振り下ろした仕草に、もし吹き出しをつけるとしたら「ふざけんな、この野郎」ぐらいのセリフがピッタリとはまるぐらいの激高ぶりだったのは明らか。スタンドのプレス席で試合を観ていた私にすら、その怒りがひしひしと伝わってきたほどだ。選手たちにはおそらく、心のなかにあるそのセリフが届いたのではないだろうか。

 そして、その心のメッセージは別の意味も含まれていたはずだ。

「闘え! 闘う気持ちを出し切れ、使いきれ!」と――。

 スコアは1-0、残りはロスタイムの4分。ここで同点に追いつかれていたら、指揮官の退席が響いたことになる。だが、ピンチはあったにせよ、結果的にゴールは奪われなかった。チーム全員で体を投げ出し、ひるまず、激しくファイトして、岡崎慎司が奪った先制点を守り切った。「岡田の魂」が選手たちを最後に奮い立たせた、もう1度ファイティングポーズを取らせた――とも言うことができる。

 今回はジョホールバルの歓喜のような、それにバンコクの無観客試合でW杯出場を決めたような、ベンチから一斉に選手、スタッフが飛び込んでくるお決まりのシーンはなかった。

 だが、試合を見ていた者の心を揺さぶった試合であったことは間違いない。試合が終わると、「いい試合だったな」とばかりにスタンドやウズベキスタンのメディアから拍手が巻き起こったことには、少々驚いた。地元ウズベキスタンの健闘を称える意味が大部分であったろうが、その拍手は日本にも向けられているような気がした。

攻めても守ってもウズベキスタンのファウルが襲いかかる。

写真ゲーム開始早々から、あらゆる局面でウズベキスタンのラフプレーが行われた。
【写真クリックで拡大】

 完全アウェーの状況に、キリンカップ2試合で8得点を挙げた日本の攻撃の持ち味は出し切れなかった。自陣に入れば、中盤と最終ライン4枚ずつでブロックをつくってファウル覚悟で激しく体を寄せてくるウズベキスタンに手を焼き、激しくつぶされたところで笛は鳴らない。逆にカウンターを受けて食い止めるとファウルと判定され、セットプレーから再三再四、ピンチに陥るという悪循環を繰り返すばかり。

 それでも、日本は耐えた。最終ラインの前にぽっかりスペースが空いてしまえば、中村俊輔が全力で走ってきてカバーした。理解不能なジャッジや、オフサイドの判定にカリカリきてもおかしくないのに、大久保嘉人は努めて冷静にチームのために走っていたし、ペナルティーエリアに入れてしまうとPKと判定されるリスクがあるため、“水際”で食い止めようとした中澤佑二、闘莉王の判断も賢明だった。

 選手それぞれがいい判断をした。勝つために何が必要か、を臨機応変に対応できたのが大きかった。そして、もう1つの勝因は、ファウルと判断されようが、ひるまずスライディングや激しい守備を持続させた「勝利への執念」ではなかったか。枠をとらえていたウズベキスタンのシュートが次第に雑になっていったのも、シュートミスをした、のではなく、日本のディフェンスがミスをさせた部分もあるように思えた。

【次ページ】 勝利への執念を高めるために岡田が下した命とは。

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