チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
『カナリア』になるためにCLで飛ぶ。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byNaoya Sanuki
posted2005/11/30 00:00
シャルケ04。僕はこのチームのサッカーをとても気に入っている。美しい。そして、円やかで爽快感に満ちている。ここまで快適な気分にさせてくれるチームも珍しい。中心選手はリンコウン。10番を背負うブラジル人だ。ケレンミはないし、シャープだし、クレバーだし、シャルケの美しさを象徴する選手になる。ブラジル代表歴がない点にもそそられる。ドイツではともかく、世界的な知名度は低い。そんな選手のプレーが、チャンピオンズリーグの次戦では、いやでも注目されることになる。対ミラン戦。サンシーロで行われるこの最終戦は、面白い一戦になりそうだ。
ミラン8、シャルケ8、PSV7、フェネルバチェ4。E組は以上のような成績で最終週を迎える。シャルケが地力でグループリーグを突破するためには、このアウェー戦で2−2以上の引き分けか、勝利が求められる。ハードルはけっして低くないが、ホーム、ゲルゼンキルヘンで行われたミラン戦を振り返ると、絶望的な気は湧いてこない。むしろ番狂わせの可能性を感じる。
その2−2の試合は、僕が今季これまで観戦した試合の中でも、名勝負と言いたくなるほど面白い内容だった。シャルケおよびリンコウンに好感を抱く原因となった一戦でもある。相手のミランにはカカがいた。リンコウンには、ブラジル代表のレギュラーMFを相手に、期するところがあったはずだ。そしてその高いモチベーションは、次戦でも発揮されるに違いない。
リンコウンに似た感情を持つブラジル人が、とても多いであろうとは想像に容易い。ブラジル代表のレギュラーはたったの11人。対して、日常のW杯と言い換えることができるチャンピオンズリーグには、50人以上のブラジル人選手が出場している。「チャンピオンズリーグに出場しても、代表のレギュラーになれない率」は、この国が一番だ。とはいえ、アピールする場は、チャンピオンズリーグが一番だ。ここで活躍すれば……の思いは、その大抵の胸に秘められている。
ジュニーニョ・ベルナンプカーノは、さしずめその筆頭だろう。ブラジルの攻撃的MFは、ロナウジーニョとカカで席が埋まっているかに見える。3番手と目されるジュニーニョにとって、これは面白くない話だ。なんとかしてスタメン出場を果たしたい。チャンピオンズリーグの活躍に、それは思いきり反映されている。ジュニーニョ率いるリヨンは、グループリーグでレアル・マドリーと同じ組で戦い、最終週を待たずに首位通過を決めた。ホーム3−0。アウェー1−1。マドリーに対して残した通算4−1というスコアは、ジュニーニョにとって、これ以上はない成果だろう。
マドリーにはロナウドがいる。ロビーニョもいればロベルト・カルロスもいる。今季、バプチスタもセビーリャから移籍してきた。そして監督はルシェンブルゴ。現在の銀河系軍団には、ブラジルテイストが溢れている。フランスはリヨンという遠く離れた場所にいるジュニーニョにとって、対マドリー戦は「見られている」意識が特別に働いた重要な一戦だった。してやったり。今頃、彼の自己マンはピークに達していると思われる。
欲は早くも、バルサとの直接対決に及んでいるのかも知れない。それはロナウジーニョとの直接対決を意味する。ミラン戦もしかりだろう。カカとの直接対決も待望しているはずなので、ミラン対シャルケ戦に臨むリンコウンに対しては、いまごろ、余計なことはしないでくれ!ヤツは俺に殺させてくれ!と、無言のメッセージを送っているものと思われる。
FW陣ではベティスのオリベイラが一番手だった。ロナウド、アドリアーノ、ロビーニョバプチスタ。今年のコンフェデ杯で、オリベイラはその次にランクされていた選手だった。チャンピオンズリーグには、並々ならぬ決意で臨んでいたはずだ。ところが、グループリーグ第4戦、ホームの対チェルシー戦で、全治6か月の重症を負ってしまう。転倒した瞬間、彼が翳した×印には、二つの意味が込められていた。日常のW杯と4年に一度のW杯、それぞれを断念する絶望感に打ちひしがれながら、担架に担がれて退場していった。
バプチスタは、昨季5位のセビーリャを離れ、レアル・マドリーへ移籍した。オリベイラは、同じセビーリャに本拠地を持つベティスに残った。おそらく、チームがチャンピオンズリーグ出場権を獲得したために。
2006年W杯の大本命、ブラジル代表を巡る争いは、チャンピオンズリーグを通して見れば一目瞭然。パレイラ監督の自宅には、その膨大な資料が山積みされているに違いない。