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さようなら、ルシェンブルゴ! 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2005/12/06 00:00

さようなら、ルシェンブルゴ!<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 この原稿を書いているスペイン時間4日13時現在、ルシェンブルゴ監督が解任される、という未確認情報が入っている。

 発信元はAS紙でアリゴ・サッキ(スポーツディレクター)とブトラゲーニョ副会長を情報源としている。朝10時から会議があり、午後、解任が正式発表される見込みだという。レアル・マドリーに詳しいマルカ紙は解任の可能性に触れるのみ。一般紙は現在のところ報道していない。後任は、カスティージャ(レアル・マドリーB)の監督ロペス・カロだという。

 そのくらい昨夜の試合は酷かった。

 1−0で勝つには勝ったが、貧乏クラブ、ヘタフェに銀河系の戦士たちが完全に踊らされていた。データは雄弁だ(カッコ内がレアル・マドリーの数字)。ボール支配率:ヘタフェ61%(レアル・マドリー39%)、シュート数:17(5)、アシスト数:10(2)、センタリング数:46(10)、コーナーキック数:13(10)。枠に行ったシュートは1本だけ、それが18分のロナウドのゴールだった。

 ボール支配率が30%台というのは大スキャンダルである。あのバルセロナ戦ですら45%を割ることはなかった。グラウンドにはグティ、ジダン、ロビーニョ(バプティスタ)、ロナウド、ベッカム、ロベルト・カルロスと、怪我のラウールを除けば、ボール扱いにかけては世界一流の業師が勢ぞろいしていた。体調不良でロナウド、ジダン、グティが動けなかったバルセロナ戦とは違うのだ。ベッカムの退場(57分)で10人で戦わざるを得なかったのは事実だが、前半ですら43%しかボールを持てなかったのである。相手はシャビー、デコ、マルケスではなく、リバス、セレスティーニ、コテロで、スタジアムは7万人の大観衆が見守るベルナベウなのだ。

 勝ち点3を追加してこれで首位バルセロナに一時的に3ポイント差(バルセロナはその後ビジャレアルに快勝。勝ち点差は6のまま)に迫ったが、ただ勝ちゃあいいってもんじゃない。

 「まるでアウエイでの試合みたいだ。(中略)いつも最高のプレーができるわけではない。ファンは応援するためにスタジアムに来るべきだ」(ロナウド)。自陣に引っ込んでひたすら耐えて終了のホイッスルを待つぶざまな試合ぶりに、ファンはブーイングで応えた。特に、残り4分でロナウドに代えグラベセンを投入、あからさまに守りに出た采配にはより激しいヤジが飛んだ。

 ファンだけではない。当のフロレンティーノ会長すら立腹だったという。「もう我慢ならぬ。(ルシェンブルゴを)辞めさせる。ロペス・カロにやらせる」とVIP席を後にする際につぶやいたとされる。

 4日16時、一般紙、テレビ、ラジオも更迭のニュースを確認。正式発表は19時の会議を経てとなるが、もう間違いない。

 ルシェンブルゴも1年もつことがなかった。彼はフィジカル・トレーニングを強化し、戦略を取り入れ(ライン間を詰めコンパクトにしようとした)、ファイティングスピリッツを植え付け(彼の就任後、ファール数が激増した)、攻守バランスを改善し(昨季グラベセン、今季パブロ・ガルシア、セルヒオ・ラモスら守備のスペシャリストを補強)、21試合で15勝3敗3分の立派な成績を残し、チームを5位から2位にまで引き上げた。ベルナベウではバルセロナに快勝し優勝争いにもからんでいる。

 ところが、“魔方陣”などというおかしな戦略(?)を口にし出してから迷走が始まった。ラインは間延び、歩きながらプレー、カリカリして暴力プレーですぐ退場、という悪癖3点セットが、再び顔を覗かせ始めたのだ。なぜ、昨季好成績を残した戦い方を継承せず、魔法のアングルだの、魔法の三角形だのにこだわったのか理解に苦しむ。選手をブラジル化してサンバのリズムで踊らせれば、ブラジル代表と同じゴージャスなNO.1ダンサーになれると信じていたのだろうか。

 クリスマス休みを直前に控えての解任は、冬の補強マーケットのオープンを視野に入れてのことだろう。監督を代えるのなら、新戦力獲得の前というのは当然の判断だ。前回のレポートで紹介したとおり、ルシェンブルゴはシシーニョとリカルジーニョの獲得を要求しているとされるが、“ブラジル人はもういい”がフロントの本音だったようだ。後任のロペス・カロは長くてクリスマス前までのつなぎ、本命はデル・ボスケ、イルレタ、ビクトル・フェルナンデスの3人に絞られている、という。

 フロレンティーノ会長のプランは、ルシェンブルゴ今季限り、カペッロ(ユベントス)、モウリーニョ(チェルシー)、ベニテス(リバプール)から選ぶはずだった。ところがシーズン途中の解任では、現役の監督であるカペッロ以下にリレーするには無理。失業中のデル・ボスケらに白羽の矢が立てられたのだ。スペイン第二の一般紙「エル・ムンド」のアンケートによると、理想の監督ナンバーワンに選ばれたのは、(1)デル・ボスケ(得票率34%)、(2) カペッロ(17%)、(3) ベニテス(16%)が続き、アクの強さが嫌われたのかモウリーニョはわずか7%の支持にとどまった。

 私がフロレンティーノ会長ならデル・ボスケは選ばない。フェルナンド・イエロのような強力なチームリーダーが不在で、ブラジル軍団、多国籍軍、スペイン人に分裂してモラルが著しく低下している現状は、好々爺タイプの彼の手に余ると思う。ルシェンブルゴは鬼将軍タイプだったが、彼にはブラジル軍団に対する甘さがあった。どうせなら、ブルドーザー中のブルドーザー、鬼の中の鬼に託すべきではないか。この点カペッロ、モウリーニョ、ベニテスなら誰でも良かったのだが、シーズン中ということで断念。私ならイルレタを推す。

 彼はデポルティボの監督として、限られた戦力で一からチームを作り上げることを経験しているし、戦略家でもあるし、プロ意識の低さを許さない厳しさも兼ね備えている。規律に従わないジャルミーニャと衝突し追い出したエピソードは有名で、ブラジル軍団が醸し出す緩んだ空気を緊張させてくれるに違いない。

 戦略的には、ボールを支配するコンパクトなサッカーを実現してくれる期待がある。短いパスを繋ぎ、フォローとカバーリングでトライアングルを作りながら攻め上がるスタイルは、カウンターに傾斜し過ぎた今のレアル・マドリーに最も欠けているものだ。

 ヘタフェ戦でパスが繋げなかったのは、パスを受け取れる場所(フリースペース)へ走る手間を惜しみ、アクロバチックなループパスに頼ろうとしたからだし、後退するだけで前で攻撃を止められなかったのはラインディフェンスでの押し上げがないため。これらパスの出し方もらい方、高いラインディフェンスの2つ(=攻守をスピードアップするために不可欠の戦略)──今どき中学生でもやっている──は、のろくてアクビが出るレアル・マドリーのサッカーを近代化するために、今すぐやってほしい。

 4日22時25分、レアル・マドリーはルシェンブルゴの解任を発表した。

 さようなら!トランシーバーで指示を与える黒手袋の将軍、「ロナウド、イホ・プータ、下がれ!」と罵った鬼、イヤホン付き通信機導入を願う進歩派、魔方陣をぶち上げたマジシャン……。話題づくりの天才が去り寂しいが、そろそろ有能な実務家の出番だろう。

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