佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
思わぬ試練
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/06/22 00:00
「応援してくれてるファンの皆さんに申し訳なかったです。ボクもレースしたかったんですけど、最終的にはこういう結果になって本当に残念です」
たった6台のマシンのエキゾーストノートが反響するパッドクで、佐藤琢磨は帰り支度をしながらそう言った。
8番手グリッドに着いてフォーメイションラップに出て行くまでは、いつものレースとなんら変わりはなかった。しかし1周回って来た琢磨はミシュラン勢14人のひとりとしてピットロードに入り、ガレージに帰還。しばらくしてマシンを降りた。
「フォーメイションラップが始まって、チームから無線で『ピットに戻らなきゃいけない』と言われたんです」
レースができないほどドライバーにとって苦しいことはあるまい。それも自分の体調やマシン・トラブルではなく、走ろうと思えば走れなくもない状況下での人為的リタイア。ファンをことさら大事にする琢磨にとって屈辱以外の何ものでもない今年のアメリカ・グランプリ。昨年が輝かしい3位表彰台だっただけに、戦わずしてサーキットを後にする気分は察するに余りある。
なぜ走らずリタイアの道を辿ったのか。原因はミシュランが持ち込んだタイヤに構造欠陥が見つかり「レースでの安全を保証できない」ことが判明したからだ。金曜日の午後、ラルフ・シューマッハーの左後輪がいきなりパンクして壁に激突。その直前にリカロ・ゾンタも同様のトラブルでコースを飛び出していたが、同様のトラブルはすべてのミシュラン・ユーザーに起こる可能性があることが判明。有効なトラブル対策は見つからなかった。
「シケイン造れとかそういう話もあったんですけど、基本的にはタイヤの安全性含めてレースできないということです」
金曜日は下位に低迷。しかしセットアップを大幅に変えることで、予選では3位バトンとそれほど遜色ないタイムを叩き出し8位につけた。前戦カナダでレース中にギヤボックスを交換してまで予選アタック順位を上げることにこだわったBARホンダと佐藤琢磨は、インディアナポリスでも“戦える”態勢を作ったのだ。だが、武器が戦う以前の問題。折れることが分かっている刃で相手と立合うわけにはいかない。
せっかくのチャンスを外的要因でつぶされてしまった琢磨とバトンは、今回ジョーダンとミナルディの4人が得点したことでレギュラー・ドライバーの中では無得点のふたりとなってしまった。BARホンダも同様に最下位。
禍福はあざなえる縄の如し、と古人は喝破したが、状況が福に転ずると必ず何かが起こる今年の琢磨である。
「残念だしファンには申し訳なく思うんですけど、精一杯やった結果がこれだった。
次、ヨーロッパに戻っていいレースをしたいと思います」
そういって琢磨はインディアナポリスを後にした。たった6台のレースはまだ終わっていない──。