チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
必見、PSV対リヨン。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byRobert Cianflone/Getty Images
posted2006/01/16 00:00
3大ブックメーカーは、いずれもチェルシーを優勝候補の本命に推していた。バルセロナは2番手に甘んじていた。グループリーグが終了した段階での話だ。しかし決勝トーナメントの抽選を経て、順位に変化が起きた。一番手に躍り出たのはバルサ(5倍)。片やチェルシー(7倍)は、ユベントス(6倍)にも抜かれ3位に甘んじている。それぞれの差はわずかながら、ブックメーカーの予想を高く評価する僕にとっては、これは見逃せない変化である。
順位の変動は、それぞれの国内リーグの成績とリンクしているのだろう。開幕当初のバルサは引き分けが多く、オサスーナに首位の座を譲っていた。片やチェルシーは、ベティスにアウェーで0−1で敗れるまで、開幕10連勝を記録した。シーズンの入りではチェルシーに軍配が上がった。チェルシーはチャンピオンズリーグでベティスに敗れると、その週末に行われたマンチェスターU戦にも敗れたが、その後はペースを取り戻し現在に至っている。
バルサは、チェルシーが一息ついている間にペースを上げていった。現在は連勝街道を走っている。一方ユーベは、両者の間隙を縫うように、アップダウンなく、開幕当初から好調を持続し、現在に至っている。チェルシーとバルサの直接対決が決まったいま、その存在は一際不気味に見えてくる。いまからおよそ1か月半後、チェルシー、バルサのどちらかは、舞台から消えている。ユーベはブレーメンに番狂わせを許すとは思えないので、存在感が増すことは必至だ。
チェルシー対バルサの直接対決に話を戻せば、3大ブックメーカーの一つである「ウイリアムヒル」は、チェルシーホームの第1戦を、2対1.72でバルサ有利と予想している。両者の関係は昨季と同じ状態に戻っている。
「カンプノウ」で行われた昨季の初戦は、バルサが攻め、チェルシーがカウンターの機をうかがう展開で、90分が推移した。結果は2−1。バルサにとってそのアウェーゴールを奪われた上での1点差ゲームは誤算だった。第2戦に気分良く臨める結果ではなかった。そこに本命バルサの敗因が潜んでいた。
今季の対戦順は昨季とは反対だ。本命バルサはまずアウェー戦を、3番手チェルシーはまずホーム戦を戦う。昨季とは異なる対戦順を喜んでいるのは、昨季敗れているバルサの方だろう。しかし繰り返すが、バルサは本命でチェルシーはあくまでも3番手だ。もしチェルシーが、昨季と同様、第1戦で良い終わり方をすれば、チャレンジャーという立場の気楽さと相まり、追い風が吹きそうな気がする。
基本布陣はともに4−3−3ながら、チェルシーには4−4−2のオプションもある。4−3−3で押し通すバルサは、それが上手く流れている時は良いが、流れを変えたい時にも、それで押すしかない点に一抹の不安を感じる。かつてテンカーテ助監督は「相手が1トップならセンター2バックで、2トップなら、両サイドバックのどちらかをつるべの動きで最終ラインに残す守備体系を敷く」と語ってくれたが、これはあくまでも受動的な作戦だ。悪い流れを断ち切り、良い流れに導こうとする作戦ではない。
いっぽうチェルシーには、4−4−2以外のオプションも用意されている。中田も出場した今季の対ボルトン戦では3バックを披露している。3バックといってもジーコ型ではない。3−3−3−1的なオランダ型の3−4−3だ。バルサは2トップではないので、この布陣が登場することはないだろうが、幅の広さは、チェルシーの方に見て取れる。モウリーニョ采配に、ヒディンクの匂いを感じるのは、僕だけだろうか。
そのヒディンク率いるPSVは、決勝トーナメント1回戦で、ウイリアムヒルの予想では4番人気に推されるリヨンと対戦する。PSVのオッズは41倍で、12番人気。リヨンの勝利は堅いと見られている。相手が強ければ強いほど燃えるヒディンクが、どんな戦法でリヨンに臨むのか。
少なくともジーコは、この一戦の現場に駆けつけ、名将ヒディンクの采配を学習するのが筋である。豪州を知るこれ以上の機会は他にない。
ちなみにウイリアムヒルのW杯の優勝予想では、豪州が16番人気の81倍なのに対し、日本は23番人気の151倍。F組の突破確率でも13倍(3位)対15倍(4位)で、日本は豪州に劣っている。ジーコのみならず、日本人は総じてPSVの戦いぶりを研究する必要がある。チェルシー対バルサも良いが、PSV対リヨンは、本来それ以上に必見の試合になる。忘れてはいけない事実だと僕は思う。