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貫き通した真っ向勝負。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byMarcaMedia/AFLO

posted2008/12/26 00:00

貫き通した真っ向勝負。<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

 シーズンの折り返し地点まで3節を残して、バルサが前半戦の勝者“冬の王者”になってしまった。開幕から16節までを13勝1敗2引き分けで終えたのは60-61シーズンのレアル・マドリー以来。記録的な勢いでポイントを積み重ねていることもあって、大方のメディアは「このままゴール地点まで独走する」と見ている。

 しかし、首位争いが冷めてしまっても、リーガ全体がしらけることはないだろう。今シーズンこれまでを見たところ、順位表の中程にいるチームが、非常に攻撃的なサッカーで今後も観る者を楽しませてくれるはず。バジャドリーにマラガにラシン・サンタンデール……。

 中でも面白いのはスポルティング・ヒホンだ。本当にそれでいいのかと思わず心配してしまうイケイケぶりがすごい。

 今季11年ぶりの1部復帰を果たしたスポルティングは、スペインで最も歴史あるクラブのひとつ。プロが使用するスタジアムとしては国内最古のエル・モリノーンを本拠とし、そのカンテラは数多くの名選手を輩出してきた。レアル・マドリーとバルサの両方でプレイしたルイス・エンリケや、バレンシアのビジャもこのクラブ出身だ。

 ただし、タイトルをとったことはなく、リーガでの最高位は78-79シーズンの2位で、国王杯でも2度の準優勝が最高。70年代の終わりから90年代の初めにかけてUEFAカップに6度出場しているが、2回戦から先に勝ち進んだことは一度もない。

 昨今は財政難に苦しみ、この夏も大した補強はできなかった。カンテラ上がりを18人も擁し、1部リーグは初めてという選手が10人もいる。そのため、今季はしっかり守る手堅いサッカーで、1部残留を目指すのだとばかり思っていた。

 ところが、蓋を開けたら大違い。これほど愉快なチームは、いま他にない。試合の娯楽度はバルサに並ぶ。なにしろ、どんな展開になっても、ゴールを狙いに行くことを止めないのだ。スポルティングは国内有数の熱いファンを持っているが、彼らを喜ばせることを勝利より優先しているのではないかと勘ぐってしまうほど。だから16戦して6勝9敗。力の弱いチームが大事にする引き分けはひとつもない。1部20チーム中唯一である。

 スポルティングのサッカーは単純明快だ。敵のボールを奪ったら、とにかくサイドの選手に渡す。ほとんどそれだけ。

 もう少し詳しくいうと、まず右か左、どちらか有利な状況を作れる方を選び、大きく開いたウイングにパスを出す。もらった選手はサイドバックのサポート、あるいはオーバーラップを活かして、縦に突破していく。詰まったら横や後ろに2,3本パスを繋ぎ、逆サイドまでボールを送って、今度はそちらから試す。これをひたすら繰り返して、最後はポジショニングに長けたセンターフォワードのビリッチに合わせる。良いところでボールをもらった彼は右足で、得意のヘディングで、ズドーンと決める。

 選手はよく走るし、意思疎通は完璧。パスはテンポよく、スピードもある。

 こういうサッカーは見ていて楽しい。それに、どんな相手に対しても猪突猛進の姿勢を貫き通すところは潔く、気持ちがいい。

 もちろん欠点だってある。攻めの比重を大きくしたせいで、守備が甘くなってしまうところだ。16試合で35失点は20チームの中最多。開幕直後のセビリア、バルサ、レアル・マドリー、ビジャレアルとの4連戦では実に17回もゴールを奪われてしまった。

 しかし、嬉しいことに、スポルティングはそこでスタイルを変えず、信じるサッカーはそのまま、気持ちだけを切り替えた。その結果、続く5試合を全て勝ち、降格ゾーンをあっさり抜け出して、現在は11位に付けている。2部落ち最有力候補だったのが、いまでは今季最大のサプライズ候補だ。

 まだ先は長いが、いまの調子でいけば、攻撃的サッカーによる1部残留は夢ではない。面白いスポルティング。来年も変わらないでいてもらいたい。

ルイス・エンリケ
スポルティング・ヒホン

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