佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
クラッチ・トラブル
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/07/19 00:00
「このあいだもフィニッシュがなかったので、明日はなんとか完走したい。SA05の最後のレースですから1周でも多く走って、新車につながるデータを残したいです」
予選終了後のコメントを佐藤琢磨は明るい表情でそう締めくくったが、結果は0周リタイア。前戦アメリカの6周リタイアに引き続き、本番ではまったくいいところなしのレースとなってしまった。リタイア理由はアメリカと違ってマシン・トラブルで、土曜日からこれほどメカニカル・トラブルに見舞われたケースも珍しい。
マシン・セッティングの最終確認をしなければならない土曜日午前中、琢磨は燃料供給系統のトラブルでエンジンがストップし、数周しかできずじまい。幸いタイヤ選択は前日に決定していたので予選にはさほどさしつかえなかったものの、結果は最後尾22番手。もっともこれは、チームメイトのモンタニーが一発のタイムに秀でたソフト・タイヤを選んだのに対して、琢磨が本番重視のハードを履いたためで、予選の0.2秒差は単にタイヤの違いと見ていい。
そんなことよりも決定的に足を引っ張ったのがクラッチ・トラブル。決勝のフォーメイションラップに出て行く時から発進がスムーズではなく、エンスト寸前でマシンが前に進まない。本番スタートでも同じ症状が出て、ギクシャクが長く続いて大きな出遅れ。幸いヘアピンまでに先行する車群に追いついき、まずモンテイロを抜きはしたがほどなく駆動力を失いストップ、万事休す……。2戦連続のリタイアとなった。
誰よりも早くパドックに戻った琢磨は着替えも早々にサーキットを後にした。
SA05によるここまで12戦の戦績は完走5回、リタイア7回。予選最高位18位(アメリカ)、決勝最高位12位(オーストラリア)というものだった。
さて、2週間後のドイツにデビューする新車SA06のポテンシャルやいかに?
鈴木亜久里代表は「4秒速くなる!」と言った後で「4秒速いとフェラーリ追い越しちゃうか」と笑い「走らせてみなきゃ分かんないけど、1.5秒〜2秒速くならないと新車出す意味ないでしょう」と目標値を述べた。
SA06はSA05と同じモノコックを流用しながらも、ミッション、エンジン搭載位置、空力パッケージを一新したもので、これらがうまく働けばたしかに2秒前後のタイムアップは可能だろう。具体的にはすぐ間近な敵であるミッドランド、トロロッソを破って、トップ11位〜17位までが残れる第2予選に進むあたりがひとまずの目標となるか。
ここで頼もしいのは佐藤琢磨のマシン開発の経験である。彼はテストドライバー時代を含めて5年以上の経験を積んで来た。メカニズムに強い理論派琢磨の手腕の見せどころ。そしてチームとしては琢磨の開発能力を存分に活かすために早く初期トラブルをツブすことが肝心だろう。
もっとも、新車が完全に新車として機能するまでには8月下旬のトルコGPまで待たなければならない。それというのもフロント・サスペンションの製作だけが間に合わないのだ。それが来て初めて正確な意味での佐藤琢磨とスーパーアグリF1チームの後半戦が始まる。鈴木亜久里代表はフランスGPが終った後、こう言った。
「やっとウインターテストが終わった。待ちくたびれたよ(笑)」