佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ディレイ
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/07/05 00:00
「やった、やった、うん!」
まるでワールドカップの予選リーグを突破したかのような(してやったり!)の表情で現れた。予選の後の佐藤琢磨である。
「ここまでどんなに頑張っても21位がやっとだったのに、今日は走っていて楽しかったし、興奮しました」が第一声で、続けて「プラクティスから面白い予選になるだろうと思ってました」と加えた。
佐藤琢磨、予選18位。第10戦アメリカGPまでの予選最高位はモナコの19位。たった1ポジションとはいえ、これは大きな一歩だった。琢磨の後方グリッドにはトゥルーリ、モンタニー、リウッツィ、ロズベルグがいる。振るわなかった理由がそれぞれにあるとはいえ、基本的に4年前のマシンで戦う琢磨が中堅チームのドライバーを蹴落としたのはまぎれもない現実である。
このことをあらかじめ予言していたのは他ならぬ琢磨自身だった。
「ここはSA05に不足しているダウンフォースがそれほど求められないコースなので、ボクたちのマシンのパフォーマンスが最大限発揮できるサーキットだと思います。カナダはいいところまで行っていたので、その流れを大事にしたい」
これが試走を前にした琢磨の予想だったが、まさにその言に違わぬ予選結果を手にしたのである。金曜日は順調に周回をこなし、夕方に雨が来たが、土曜日午前中の路面コンディションはさほど大きな変化もなく、金曜日の好調さに好調を積み重ねるように琢磨は午後の予選で今季予選自己ベストを更新したのだった。タイヤがすばらしい!ともコメントしている。
さらに決勝スタートの第1コーナーで運も琢磨に味方する。大量7台を巻き込む多重クラッシュが発生したことで、琢磨のポジションは18位から一気に11位にまで跳ね上がる。この事故処理のためにセーフティカーが出動し、ゆっくりと周回。セーフティカーが引っ込んだのは6周目。残り周回数は67周もあるから、佐藤琢磨およびスーパーアグリF1チームの初得点の可能性は大いにあった。
だが、その希望は、セーフティカー退去からほどなく潰え去った。ストレートエンドで琢磨に並ばれていたモンテイロが1コーナーで琢磨に寄って来て、行き場を失った琢磨は縁石に乗り上げコントロールを失い、モンテイロのマシン真横を“Tボーン”状にヒット。琢磨はトラックロッドを破損してマシンのコントロールが利かなくなり、その場でリタイアとなった。
「モンテイロはボクがインに居ることを分かっていたはず……」と、琢磨はモンテイロの強引な“絞め”に不満を見せるが、鈴木亜久里代表によれば「もったいなかったけど、止まってしまってはどうしようもない」ということになる。
あまりにアッケないアメリカ・グランプリ。しかも次戦フランスには、ファン待望の新車SA06デビューが施設事故による開発時間延長によりディレイ。なんとか新車が出てくるのは7月下旬のドイツから。佐藤琢磨の夏の陣は、どうやらきびしい暑さとなりそうである。