Column from EnglandBACK NUMBER
オーウェンをリバプールに戻らせる
方法、教えます。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/05/25 00:00
ひと月ほど前、ニューカッスル在住の友人から、1枚の写真が送られてきた。写っていたのは、セント・ジェームズ・パークの控え室に掛けられた2枚のユニフォーム。1枚は『9 SHEARER』、もう1枚は『10 OWEN』だ。
“ジョーディー”(ニューカッスル出身者)の彼としては、マイケル・オーウェンの復帰をアピールしたかったのだろう。だが、筆者の脳裏に浮かんだのは、「オーウェンって、そんな前からニューカッスルにいたのか?」という思いだった
実際の移籍は2年ほど前だが、“ニューカッスルのオーウェン”というイメージは驚くほど薄い。度重なる怪我のために2シーズンで14試合にしか出場していないのだ。
対照的に強烈なのが、“イングランドのオーウェン”というイメージである。戦線復帰を果たしたレディング戦(4月30日)では、試合前のメンバー発表で「10番、マイケル・オーウェン!」とアナウンスされると、レディング・サポーターからも拍手が沸き起こった。ラジオの実況担当者たちも、選手がピッチに倒れ込む度に、「ちなみにオーウェンではありませんので、ご心配なく」と繰り返した。リハビリ中だったこの10ヶ月間、国民はオーウェンに対して高い関心を寄せ続けていた。それはニューカッスルでの復帰を期待していたからではない。むしろユーロ予選に出場できるかどうかで、やきもきしていたからだ。
しかしニューカッスルの首脳陣は「代表復帰に関する質問はうんざりだ」と苛立っている。これも無理はない。昨夏のW杯で負った怪我に対して、FIFA(国際連盟)から4億円強の賠償金は得ている。だが約40億円もの移籍金に対する見返りは得られていない。さらにここに来て、オーウェン陣営が「9百万ポンド(約21億円)で移籍が可能」と現在の契約の内容を明かしたために、クラブ側は態度を硬直させている。フレディ・シェパード会長などは、「クラブとファンに改めて忠誠心を見せるべきだ」と、オーウェンにプレッシャーまで掛け始めた。
オーウェン自身はノーコメントを貫いているが、この点に関して、本人を責めるのは酷というものだ。ニューカッスルが意中のクラブでなかったことは、移籍当初から公然の事実だった。入団発表時には、スタジアムに集結した2万人のファンに「感動した」とコメントしたが、今年28歳になるオーウェンが、サッカー選手として最も脂の乗る時期を、タイトルを狙えるクラブで過ごしたいと願うのは不思議ではない。むしろ非は、獲得に要した費用の半額で移籍を認める条項を、契約内容に盛り込んでいたクラブ側にある。
新監督のサム・アラーダイスは、エースの引き留めに全力を注ぐだろう。しかし相当な梃入れを行わない限り、オーウェンの情熱を引きとめるのは難しいように思われる。移籍先としてはマンチェスター・Uという噂もあるが、果たして、リバプールで長年を過ごしたオーウェンは、そこまで割り切れるだろうか?あるいは英語で言うところの“Gun for hire(仕事請負人)”に徹し、クラブを転々とすることになるのだろうか?
このような状況の中、イングランドでは、自称リバプール・ファンがYouTubeにアップロードした映像(やらせや演技ではなく、実際に撮影されたもの)が話題を集めている。
シェパード会長が運転する車にファンの車が近づく。「フレディ、フレディ」と連呼されたシェパードは、運転席の窓を下ろす。
「マイケル(・オーウェン)を返してもらえませんか?」とファン。するとシェパードは、
「9百万ポンド払えば、私が車でアンフィールド(リバプールのスタジアム)まで連れて行ってやるよ!」と答えたのである。
いかにもイングランドらしいユーモアのあるやり取りだが、会長が「(オーウェンは)いい奴なんだが、代理人がなぁ…」などと真顔で言うあたり、“ひょっとしたら”とも思わせる。
だとするならば、次はオーウェンをレアルに放出したラファエル・ベニテス監督を、いかに説得するかがポイントになる。YouTubeの投稿者は、是非ベニテスへの突撃インタビューも試みるべきだろう。
「かつての“神”(ロビー・ファウラー)の後釜として、かつての“神童”を呼び戻してもらえませんか?」と。