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1リーグにしても赤字は消えない。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2004/07/20 00:00

 プロ野球のオーナーたちは、いったい何をしようとしているのか。

 彼らは、口をひらけば1リーグ、1リーグといっているが、1リーグにすればどんないいことがあるのか、ぼくにはさっぱり分からない。

 こんどの問題の発端を作ったバファローズは、年間の赤字が40億円といっている。マリーンズも35億円だそうだ。1リーグになればジャイアンツと対戦でき、1試合1億円といわれるジャイアンツ戦のテレビ放映権料がはいるからその赤字が解消されるというのだが、どういう計算をしたらそういう答が出てくるのだろう。ジャイアンツの渡辺オーナーの私案によれば、10チームで1リーグにした場合の試合数は、14回総当たりの126試合だそうだから、各チームのジャイアンツ戦の主催試合は七試合にしかならない。7億でどうして40億だの35億だのという赤字が解消されるのだろう。

 その程度の金なら、ドラフトを完全ウェーバー制にして、逆指名選手に使う裏金を使わないですむようにしたほうが、ずっと簡単に収支が合うのではあるまいか。べつのいい方をすれば、その逆指名制やFA制にともなう選手の年俸の高騰を抑えなければ、1リーグにしようとどうしようと、彼らのいう赤字は解消されないのである。

 だが、もっと分からないのは、彼らオーナー連がここにきて突然その赤字額を強調しはじめたことだ(むろん、ぼくは彼らのいうその額を信用していない。バッファローズはその赤字額を強調するために、大阪ドームの使用料を年間10億円と発表したが、のちに大阪ドームによって6億円であることが明らかにされた)。

 しかし、じっさいにどの程度の赤字があるにせよ、彼らは慈善心で球団を所有しているわけではないのである。たとえば、マリーンズの重光オーナー代行は、もしマリーンズがどこかと合併した場合、「ロッテ」という名前は残すのかと問われて、次のように答えている。

「残す。それがなかったら球団経営はしない」

 むろん、それは「ロッテ」にかぎったことではなく、日本では「読売」も「西武」も親会社の名前を球団名にしていて、親会社の宣伝を目的に球団を所有しているのである。

 そして、その目的は完璧に達成されているといえる。1年365日、あらゆる新聞とテレビがそのニュースを取り上げないことはないからである。しかも、会社名を宣伝してもらうには普通は宣伝料がかかるのに、野球チームであるがゆえにタダで宣伝してもらえるのである(「オリックス」が球団名になる以前に、オリックスという会社を何人の人が知っていたかを考えてみればよい)。算出法を知っている人がいたら、その宣伝効果をぜひ金額に換算してもらいたいものだが、その額は10億や20億ではないだろう。

 つまり、オーナーたちはちゃんと投資に合った利益を得ているわけで、けっして赤字などではないということだ。

 それにもかかわらず、彼らはその巨額の宣伝効果には口をつぐんで、なぜ帳簿上の"赤字"ばかり強調するのか。しかもその"赤字"は、1リーグにしてジャイアンツと対戦しても解消されることはないのである。

 この話には、謎が多すぎる。

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