今こそモータースポーツBACK NUMBER

ド・本命の意外な大ポカ 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

PROFILE

photograph byHiroshi Kaneko

posted2004/11/24 00:00

ド・本命の意外な大ポカ<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

 F1が終るとG1の季節、4輪から4足へ……というのはごめんなさい、筆者の個人的趣味のお話でした。

 しかし、F1を取材し、競馬にうつつを抜かしていると、このふたつにはある共通点があることに気付く。やっぱり本命は強い、というちょっと情けないような事実なのだ。

 ここでいちいち秋競馬前半戦を振り返るわけにはいかないが、ことF1に関していえば今年も本命シューマッハーの圧勝だった。なにしろ開幕5連勝の後、モナコで一休み(1敗)。そこで息が入ったのがよかったか、この後なんと7連勝。これでお終いかと思いきや、鈴鹿でダメ押しの圧勝を飾って年間最多勝記録を樹立してしまった。毎戦馬単で買っておれば……などと馬鹿なことを考えたりもして。

 ただし、本命といえど完璧はない。とりわけ終盤5戦でシューマッハーが1勝しかできなかったのは不可解といえば不可解であり、特に印象に残ったのが時たま“大ポカ”としか思えぬ大失敗をやらかすこと。

 たとえば、15戦目イタリア。スタートの1コーナーでショートカット、その先のシケインでは大スピンを演じて最後尾近くまでドロップ。これは、ま、2位まで挽回したから結果的に目立たなかったようなものの、続く16戦目中国では予選アタックの1コーナー進入で大スピン! ノータイム。ピットスタートを選んだ決勝でも、バックストレッチ手前の渦巻きコーナー出口で単独スピンを喫し、けっきょく“らしからぬ”12位でレースを終えている。

 圧巻は最終(18)戦のブラジル。土曜日午前中のセッションもあと数分でお終いという時に、中速右コーナーへのターンインをミス、スピンしながら右サイドからタイヤバリアに大クラッシュ! 幸い身体に別状はなかったもののマシンは午後の予選までに修復不可能と判断され、エンジンもろともスペアカーにチェンジされた結果、18位スタート。いかな名手シューマッハーとて7位に浮上するのがやっとだった。

 このシューマッハーの終盤のみっつのポカは偶然なのだろうか? チャンピオンを取って目標を失い、気が緩むということはじゅうぶん考えられる。と、もうひとつ注目すべきことは、イタリアでも中国でもブラジルでもチームメイトのバリチェロの元気が良かったという点。

 イタリアではポールポジションがバリチェロ、シューマッハー3位。中国では予選にいたるまでバリチェロが僅差で喰らいつきタイム的に振り切れず、ブラジルでは予選までの4セッションすべてでバリチェロに後れを取った。ブラジルなどバリチェロに華を持たせるための三味線!? などと勘ぐったりもしたが、事実はどうやらシューマッハーがバリチェロを下せず焦ってたようだ。

 要するに冷静沈着に見えるシューマッハーといえど、どんな状況であれチームメイトに先を越されるのは不愉快。つい我を忘れて突っかかって行ってしまうということなのだろう。これをして世間では“競走馬状態”という。だから同厩舎2頭出しの場合は……などというとまたG1の方に話が向いてしまう。

 来年もシューマッハーのこの数少ない弱点が見られるのだろうか? それが大穴……じゃない、大荒れのレースにつながれば面白い。せめて数戦に1回くらいそういうレースがないと、F1もG1も飽きてしまうのだ。

F1の前後の記事

ページトップ