Column from SpainBACK NUMBER
残り3節、メッシの祈りは通じるか。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/05/23 00:00
ベビーフェイスに似合わないシブい声で、メッシはいう。
「あと残り3試合、マドリッドがしくじることを期待して……。たぶん、サラゴサ戦では何か事件が起きるんじゃないかな」
メッシは祈る。マドリーこけろ、と。サラゴサ頼むよ、と。
他力本願。でもどうして、こんなシーズン・ラストになっているのか?1月末の時点では、首位バルサと4位レアル・マドリーの間には5ポイントの開きがあり、カペッロには半分脅迫めいた罵声が飛んでいた。いまでは「辞めないで、カペッロ」ですもん。
バルサは、どこで道を間違えたんだろうか。1年前のいまごろなんかは、最高の瞬間を迎えていたというのに。
誰もが回想にふける。2006年5月17日。バルサはパリでチャンピオンズ・リーグ優勝に輝いた。
現実に戻る。1年後の5月13日。バルサはベティスに引き分けて、2位転落。欧州スーパーカップ、国王杯、チャンピオンズ・リーグのタイトルを失い、最終的には無冠の可能性まで出てきたのである。
でも、こうなったのにはいくつかの理由がある。バルセロナの人なら誰もが知っている。それだけに、「恥ずかしい」というのが街の声だった。
そもそも、スタートからネジは揺るんでいた。夏のバケーションが明けて、練習初日。デコ、マルケス、ロナウジーニョは遅刻。デコとマルケスには言い訳があったが、ロニーは確信犯。ライカールトは見てみぬ振りをして。何のおとがめもなし。
ケガから復帰したばかりのエトーは「試合に出ない」、とライカールトの指示を拒否すれば、ノイローゼになったモッタは練習をボイコットして行方不明になるし。クスリ?と疑われもした。
そもそも、ロナウジーニョの兄、ロベルト・デ・アシスがミランとの交渉を続けていたのも、混乱の原因だろう。
極めつけは、ビジャレアルに負けた翌日からエジプト遠征にでたことだ。マドリーが汗水流して練習しているとき、バルサはカイロでピラミッドを眺めていたのである。
ロナウジーニョとエトーの不仲説。ロッカールームをコントロールできないライカールト。グジョンセンも思わず、グチった。
「バルサには仲間意識ってものがないよ」と。
さらには、バルサはタイトルを獲れなければ崩壊する、という噂も流れた。グジョンセン、ジュリ、サビオラ、ジオらは出場機会を求めて出て行くといわれ、エトー、デコ、ロニーの3人までもが移籍するというのだ。
ロニーはミランに金を積まれ、エトーはライカールトに逆らった罰まではわかるが、デコまでもとは……。インテルが興味を示していて、まんざらでもないみたいで。でもベティス戦の引き分けに一番激怒してたのはデコだっていうし。こうなると、罪人だらけに思えてくる。
こんなとき、御意見番のヨハン・クライフはというと……。
「誰に罪があるか?任務を失敗したのは3、4人ではない。ほとんどだ。ここで、激怒して説明する必要もないだろう。ただし、多くのバルサのサポーターたちもリーグ優勝するのがインポッシブルだと思っている。ひとつだけいうならば、最悪な状況になったときは結束しなければいけない。決して逃げてはならない」
かなり冷めていた。悲しいくらいに。しかも、「いま、罪人を探している場合でもあるまい」とクライフはいってます。
次のアトレティコ戦で6ゴールをブチかましたバルサではあるが、2着であることには変わらない。同節にて、首位レアルはレクレアティーボにロスタイムで決勝弾を叩き込むなど、ミラクルなゲームを続けている。
残り3試合、バルサはヘタフェ(H)、エスパニョール(H)、ヒムナスティック(A)、レアル・マドリーはラ・コルーニャ(H)、サラゴサ(A)、マジョルカ(H)と続く。
メッシの祈りは通じるのだろうか。