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“150キロ超”投手がアマで急増?
速球派幻想に苦しむ若手投手たち。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byToshiya Kondo
posted2009/12/21 13:25
大学卒業後、ドラフト上位で入団した選手たちの伸び悩みが気がかりである。特に気になるのは、アマチュア時代、ストレートの最速が「150キロ以上」と騒がれた投手たちだ。
ソフトバンク・大隣、巨人・金刃、楽天・長谷部、ヤクルト・加藤……。
アマチュア時代、彼らはみなプロ入り後の活躍を期待させる選手だった。しかし、大学時代に150キロ台のストレートを計測したことで、今ではその数字を意識しすぎるあまり、本来のピッチングスタイルを見失っているように感じている。プロ入り後、彼らが伸び悩む要因の一つにこの「球速」という問題があるのではないかと思う。
球場のスピードガンに癖があり正確な球速測定は難しい。
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数年前、アマチュア選手を取材していたとき、ある指導者からこんな愚痴を聞いた。
「最近の球場のスピードガン、速いですよね。数キロ増しに感じますけど、あれはピッチャーをダメにしていると思うんです。本来のピッチングを見失う選手が増えている」。
球速表示にとらわれ、ストレート勝負にこだわるようになり、やがて自分が持つ本来の持ち味を見失っている投手が多いということだろう。
'98年怪物・松坂大輔(横浜高)、そして'01年「甲子園最速」と騒がれた寺原隼人(日南学園)の誕生は、アマチュア界に投手の評価基準が「最高球速」であることを生みだしたように思う。甲子園開催中に、スポーツ紙などが「スピードガンコンテスト」と銘打って最速投手を掲載しているのは、そうした流れが根底にある。
我々もアマチュア選手を評するとき、「MAX○○○キロ」という表現を知らず知らずのうちに使っている。アマチュア時代に球速が騒がれた投手がプロ入り後に伸び悩んでいる姿を見ていると、指導者たちの指摘も的を射ているのではないか。
どうしてプロでも少ない150キロ投手がアマには多いのか?
下記は過去のドラフト上位選手とアマチュア時代の最速表示である。数字は、日刊スポーツ出版社『アマチュア野球』がドラフト直前に誌面にて表記したものをピックアップした。
岩田稔(関大―阪神自由枠) 150キロ
大隣憲司(近大―ソフトバンク自由枠) 152キロ
金刃憲人(立命大―巨人自由枠) 151キロ
宮西尚生(関学大―日ハム 大3巡目) 147キロ
長谷部康平(愛工大―楽天 大1巡目) 152キロ
加藤幹典(慶大―ヤクルト 大1巡目) 150キロ
大場翔太(東洋大―ソフトバンク 大1巡目) 151キロ
この数字をみて、今の彼らの姿と重なる選手がどれほどいるだろうか? 近いといえば大隣憲司くらいだろう。その大隣にしても、彼の持ち味は球速というよりも、力みのないフォームから手元で伸びるストレートが武器であるはずだ。いや、それ以前に、プロ野球の中でもそれほど多くない「150キロ」を超える選手が、アマチュアでこれほど多く存在することに首をかしげたくなる。
球場によって、ある程度球速差があるのはよく言われることである。出やすい球場、出にくい球場というのは、我々も普段から感じているものだ。しかし、スピードガンが高い数字を表示したからといって、その部分だけで投手を評価していいはずはない。