岡田ジャパン試合レビューBACK NUMBER
南アフリカW杯アジア3次予選 VS.オマーン
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byNaoya Sanuki
posted2008/06/10 00:00
両チームから退場者1人ずつを出してしまったワールドカップアジア3次予選のオマーン戦は、敵地で高温多湿という悪条件での健闘が見られた反面、日本選手の未熟さも露呈された内容だった。
「大久保には『ボケ』と言っておきました」
1−1の引き分けで終えた後、岡田武史日本代表監督は、相手GKを蹴って後半29分に退場になったFW大久保嘉人について聞かれると、そう言った。関西出身者らしい言い回しで淡々と話したが、指揮官としては困っていたに違いない。
岡田監督が残り時間での交代カードの切り方を変更せざるを得なくなったと説明したように、退場は、後半見せていた反撃の流れをそぐものでもあった。
大久保の処分については、FIFA(国際サッカー連盟)規律委員会での判断が待たれるが、出場停止は1試合ですまない場合もある。不調やケガで高原直泰、巻誠一郎、前田遼一らを欠くFW勢の現状を考えると、たとえ出場停止が1試合だとしても、大久保という頼れるカードを失うのは大きな痛手だ。しかも、5月下旬のキリンカップ・パラグアイ戦以降、ようやく大久保−玉田圭司という組み合せが機能し始め、チームとして形になりつつある状況だっただけに余計に残念である。
大久保の説明によれば、オマーンGKアリ・アルハブシとの接触プレーで股間を蹴られて、反射的に出た行為だったという。暑さや相手のマークにより苦しい展開が続いていたとはいえ、大久保にはチームが置かれている状況を理解して自分自身をコントロールするだけの冷静さを求めたかった。
岡田監督がこの試合で嘆いたのは、大久保のプレーだけではなかったのではないだろうか。
前半12分にオマーンの先制ゴールの起点となるFKを与え、後半12分には、GK楢崎正剛のセーブで事なきを得たものの、DF闘莉王のプレーでPKを許した。どちらも全く不用意なファウルだった。相手に押し込まれて、余裕がなくなっていた証拠と言えるだろう。
彼らに気の毒な要素がなかったわけではない。この日の試合は、地元の人間でも普通は設定しない、夕方早い時間(午後5時15分)のキックオフで、気温37度、高湿度の中で行われた。風もなく、陽射しを浴びて座っているだけで汗が流れ落ちるような状況だ。注意力が散漫になることは否定できない。テレビの放映時間を優先したとしか思えない時間設定は、ワールドカップ予選という重要な試合の結果をも左右しかねない。選手と競技をないがしろにしたような試合運営は、とても歓迎されるものではない。
とはいえ、そういう残念な状況になってしまった以上は切り抜けるしかない。苦しい場面になればなおさら、メンタルアプローチやメンタルコントロールが重要な要素になる。だが、この日のパフォーマンスを見ると、大久保の問題の行為をはじめ、その点でまだまだ不足しているところがあると感じた。
しかし、今後が楽しみになるようなプレーもいくつかあった。玉田と中盤選手との連携がその一つだ。
後半7分、玉田は、MF長谷部誠の出したボールを受けてペナルティボックスの左を縦へつっかけると、相手ディフェンスのファウルを誘ってPKのチャンスを得た。これが、MF遠藤保仁の同点ゴールを生んだ。
後半15分には、右サイドに大きく開いた玉田へMF中村俊輔から絶妙なロングフィードが届き、玉田はドリブルで中へ切れ込んで長谷部へスルーボールを出した。相手GKがセーブしてシュートまでは至らなかったが、可能性を感じさせるプレーだった。オマーンとの第1戦の試合後に、中村は「玉田の動き出しがすごくいい。その良さをもっと活かしたい」と話していたが、経験を元にチームの積み重ねが出来てきていることを、このプレーが示していると言えるだろう。
置かれた状況で自分は何をすべきか。それが自然とプレーに出るようになれば、日本のレベルはまた一段階上がり、南アフリカへまた一歩近づくのではないだろうか。