レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
“銀河的発想”で生まれた
オーウェン獲得。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2004/08/26 00:00
レアル・マドリーがまたやってくれた。ビエイラ(アーセナル)を獲るフリをして、リバプールからオーウェンを引き抜いた。
ビエイラが駄目なら、例えばシャビー・アロンソ(レアル・ソシエダからリバプールへ移籍)に鞍替えするのが常人の発想だが、いきなりオーウェンに飛ぶところが素晴らしい。これこそ、“銀河系チーム”の冠にふさわしい補強だ。
その銀河のスケールの大きさを、私を含め大半のスペイン人ジャーナリスト、評論家は理解できず、オーウェン獲りをまったく予測していなかった。いや、当のレアル・マドリーのロベルト・カルロスさえ、「驚いた」とコメントしている。
噂はあった。
昨季レアル・マドリーが首位を独走していた頃、「次はファン・ニステルローイだ」、「トッティだ」、「アンリだ」と景気のいい花火が上がり、その中にオーウェンの名もあった。が、酷使された“銀河戦士”が疲れ切り、守備が破綻して、結局無冠に終わったことで、補強方針――あの有名な“ジダンたちパボンたち”(攻撃陣にスーパースターをそろえ、守備は若手でやりくりする)――が変わるはず、と誰もが考えた。
おりしもカマーチョ監督が「センターバックと守備的ミッドフィルダーが欲しい」と主張。フロントは早速ローマからセンターバックのサムエルを獲り、ビエイラにもオファーを出した。中盤から後ろを補強し、攻撃偏重だったバランスを正すという、常識的なチームづくりをしているかに見えた。
しかし、これはしょせん太陽系の小惑星の住人の発想だ。銀河系に属するフロントは、“パボンたち”を切り捨てても“ジダンたち”は捨てていなかった。フィーゴ、ジダン、ロナウド、ベッカムに続いて、フロレンティーノ会長は「毎シーズン、世界的な選手を獲得する」という公約を果たしたことになる。
オーウェン獲得をカマーチョ監督はこう評した。
「今のサッカーは(昔とは)別物だ。レアル・マドリーは世界的な人気のある選手が必要なのだ」。
成績やタイトル数といった面だけでなく、今やプロサッカークラブは、興行ビジネス面でも評価される時代になっている。“別物”とはそうした時代の変化を表現した言葉だろう。昨季ベッカム人気でシャツを売りまくったレアル・マドリーは、今季はオーウェンでどのくらいの利益を上げるのか? 特に、代表チームのスターを抱えるイギリスでの大商いが期待されるところだ。
とはいえ、カマーチョ監督の采配は、こうしたクラブのマーケティング戦略に必ずしも貢献するものではなさそうだ。
「(銀河戦士のうち)1人や2人はベンチで出番を待つことになるだろう」と言い放ったのだ。
オーウェンの加入は選手層を厚くするという意味で、決してマイナスではない。が、彼がレギュラーになれるとは限らない。昨季バレンシアをリーグ優勝に導き、今回オーウェンを放出せざるを得なかったリバプールのベニテス監督は、「オーウェンが今11人に割り込むのは難しいだろう」と言い、ロベルト・カルロスは、「オーウェンが試合に出られるかが問題だ。モリエンテスが戻ってきたからだ」と語っている。
オーウェンと、ロナウド、ラウール、モリエンテスはポジションが重なっている。レアル・マドリーのシステム、「4−2−3−1」では、この4人に与えられたポジションは2つ。常識的に考えれば、4人のうち2人は控えに回る。
せっかくオーウェンが入ったのに、代わりに元祖“銀河戦士”のロナウドやラウールがベンチを温めるのは、商業的にはマイナスだ。多国籍化が進むレアル・マドリーで、残り少ないスペイン人スター、モリエンテスの出場機会が減るのもうまくない。かといって、オーウェンをウイングにコンバートすれば(そんなことが可能かは疑問だが)今度はフィーゴ、ジダンと重なる。
昨シーズン、ケイロス前監督は、右ボランチ・ベッカムを発見し、銀河系の勇者たちをそろい踏みさせることに成功した。今シーズン、オーウェン加入でさらに輝きを増したキラ星たちが1人も欠けないウルトラCはないものか。例えば、ラウールの左ボランチとか、システムをいじってフォワードを6人にするとか……。銀河系の長、カマーチョには頭をもう一捻りしてもらい、マーケティング担当も喜び、私やベニテス、ロベルト・カルロスの常識を吹っ飛ばす、スケールの大きな妙案をぜひ期待したい。
最後に。
ニューカッスルからセンターバックのジョナサン・ウッドゲートがやって来た。イギリス代表の24歳。放出したボビー・ロブソン監督に言わせると、「イギリス最高のセンターバック」らしい(もっとも、温厚な彼は決して選手を悪く言わないが)。
理にかなった守備陣の補強――。こちらは当たり前過ぎてインパクトに欠けた。