オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
キリンチャレンジカップ VS.ペルー
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/03/27 00:00
2007年最初の試合で2−0の勝利を収めた3月24日のペルー戦。試合後の会見で、日本代表オシム監督は試合の印象を聞かれて「肉でも魚でもない試合だった。あまりよくない」と独特の言い回しで辛口のコメントをした。
だが、見るべきところは多かったし、そう否定的になる必要もなかった試合だったのではないか。
昨年7月にオシム監督体制になって以降、これまで国内組で固めてきた代表チームに、MF中村俊輔とFW高原直泰という、海外で活躍する選手が今回初めて合流した。さらに、彼らとドイツ・ワールドカップで共に戦ったDF中澤佑二が加わって、オシム監督は彼と闘莉王とでセンターバックを組む、4バックの布陣を採用した。
試合は2得点とも中村のFKから。19分に相手DFに競り勝った巻が先制のヘディングを決め、54分に高原が高い技術と冷静さでボレーを決めた。
だが前半は、チーム内のコミュニケーションがうまく取れずに全体にギクシャクしたところがあり、なんの問題もなさそうなところでパスが通らず、組立てにブレーキがかかる。そこに、ペルーのすばやいプレスも加わり、相手にカウンターでの仕掛けを許す場面も何度かあった。ペルーはFWピサロ(バイエルン・ミュンヘン)ら主力5人を欠いた“飛車角落ち”のチームとはいえ、日本のパスミスをさらって鋭いカウンターを繰り出す抜け目のなさは備えていた。
だが、危険な香りがする場面でも、日本は中澤と闘莉王の2センターバックを中心に冷静な対応を見せて、相手にチャンスらしいチャンスを作らせなかったのは、この日の収穫だろう。
それに、そういうギクシャク感は中村、高原、中澤という、このチームでは“新しい”要素が加わって起きた化学反応のひとつだ。オシム体制下で初合流後3日目での試合ともなれば、当然といえば当然だろう。
問題は、そういう彼らがどう溶け込もうとしたかではないか。
中村は、以前より運動量が増えてカバーする地域が広がり、大きなサイドチェンジを織り交ぜたプレーで、日本の攻撃にアクセントをつけようとしていた。周囲と噛み合わずに、徒労に終わるという場面もあったが、勝利を決める得点を呼び込む決定的なボールを生み出せる高い技術は、欧州での日々を経てさらにパワーアップしたように見える。
さらに、「時間が経つにつれてタッチ数が減り、シンプルなプレーをしたほうが効果的と気づいたようだ」(オシム監督)と、試合中にチームに適応する変化を見せた。
高原は、周囲と噛み合うようになってきた後半、突破や競り合いでの強さや鋭さを発揮して、危険な存在であることを印象づけた。それは、65歳の指揮官をして「ブンデスリーガでやっているだけのことはある」と言わしめたものだった。
重要なのは、彼らをはじめ、若手もベテランも国内組も海外組も、すべての選手がチームの方向性を理解し、それを実現しようと努めることができるかだろう。この日の試合は、その可能性を示したものではなかったか。
冒頭のオシム監督の辛口評価は、海外組に期待をかけすぎ、勝利に一喜一憂する傾向の強いこの国の人々に釘を刺す意味合いもあったと思うが、指揮官がチームづくりに求めるものが高ければこそ出てくるものにほかならない。
その監督が、試合の終盤に家長、水野、藤本の若手3人を投入して以降、「タッチ数の少ない、スピーディなボール回しでアイディアとエスプリの利いたプレーが見られた。日本のやるプレー、やりたいプレーが一部の時間帯に出ていた」と指摘した。それは、チームづくりがいい方向に進んでいることを示唆するものでもあった。
高原も、「(チームがやろうとしている)方向性は、やっていて非常にいいと思った」と話し、さらにこうも言った。「当たり前のことを選手全員が当たり前にこなす。それが出来たときに、チームは新しい一歩を踏み出せる」。
2007年のスタートとしては決して悪くなかった、と思う。