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チェルシーの英雄に託された、
ウェスト・ハムの未来。 

text by

山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2008/10/24 00:00

チェルシーの英雄に託された、ウェスト・ハムの未来。<Number Web> photograph by AFLO

 チェルシーのルイス・フェリペ・スコラーリ、ブラックバーンのポール・インスと今シーズンのプレミアには何人かの注目監督がいる。先月、その一人に加わったのがウェスト・ハムの新監督、ジャンフランコ・ゾラだ。

 この人事には筆者も少々驚かされた。現役時代、抜群のテクニックでプレミアを沸かせたイタリア人は、言わずと知れたチェルシーの英雄。ロンドンダービーともなればチェルシーに敵意を剥き出しにするチームの監督に、我らの英雄が納まろうとは。

 驚いたのはウェスト・ハムのファンも同じだろう。ゾラはウェスト・ハム史上初の外国人監督になったからだ。しかし、そこにはしかるべき理由がある。前監督のカービッシュリーが辞任したのは、クラブの運営体制が以前と変わったことが原因だった。イングランドにおける昨今のトレンドに倣い、今年3月、ウェスト・ハムは選手の売買を総轄するディレクターの採用(イタリア人が選ばれた)に踏み切った。だが監督がチーム作りの全権を握るべきだと考えるイギリス人は、これを職域の侵害だと受け止める。カービッシュリーも例に漏れず、最終的にはチーム人事を不服として辞任してしまった。その点、ディレクターの存在に慣れている欧州大陸出身者であれば不満を抱くこともない。事実、ウェスト・ハムの経営陣が最終選考に残した後任候補は、ゾラ、ビリッチ(クロアチア代表監督)、ドナドニ(前イタリア代表監督)と、いずれも外国人だった。

 この中から最も監督経験の浅いゾラが選ばれた背景には、若手育成に注力せざるを得ない事情もあったに違いない。ウェスト・ハムは2年前にテベスとマスチェラーノが加入。続いてアイスランドの銀行家がオーナーになり、金満路線を歩み始めたかに思われた。ところが大型補強は実らなかったばかりか、テベスの移籍がらみで多額の罰金や賠償金の支払いを迫られたため、クラブは堅実路線へのUターンを余儀なくされている。それに加えて昨今の金融危機。限られた予算で戦力を充実させていたくためには、元来定評のあるユースからの生え抜きをさらに磨かなくてはならない。

 ゾラは若手の指導に熱心なことで知られている。イタリアU-21代表で(共同)監督を務める以前、たとえばチェルシー時代にも、試合中にパスやシュートの判断を誤った若手に、その場で助言を与える姿がしばしば見られた。さらにゾラが提唱する「足下でパスを回す攻撃サッカー」は、ウェスト・ハムファンが切望しているスタイルでもある。アップトンパーク(ウェスト・ハムのホームスタジアム)では、過去2シーズン「真っ当なサッカー」が行なわれなかったが、ゾラ体制の初戦となったニューカッスル戦では、いきなりパスサッカーを披露。中盤の底を務めるパーカーを起点に、ディミケーレらのFW陣が後方のチームメイトと連動して3−1で初陣を飾った。新監督の下で心機一転したチームは、8位まで順位を上げている(10月20日現在)。

 チェルシーの英雄を拝借されたことについては不満が残らなくもないが、ロンドンのライバルが元気になるのは悪い気はしない。もちろん、それはあくまでも、ウェスト・ハムで監督としての経験を積み、それをゆくゆくはこちらで活かしてもらうという条件付きではあるのだけれど。

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