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フェルナンド・トーレスの憂鬱。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/10/27 00:00

フェルナンド・トーレスの憂鬱。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 フランスフットボール誌が今年のバロンドール賞候補30人を発表した。

 国籍別に分けると次のようになる。

 スペイン7人、イングランドとオランダ3人ずつ、イタリア、ポルトガル、アルゼンチン、フランス、ロシアが2人ずつ、その他7国が1人ずつ。

 クラブレベルでは国際試合で振るわず、国内リーグもさほど盛り上がらなかったスペインが断トツだ。選ばれた7人はカシージャス、フェルナンド・トーレス、ビジャ、セスク、シャビ、マルコス・セナ、そしてセルヒオ・ラモス。昨季のリーガで最も良かった選手の1人イニエスタが外れているところをみると、この選出にはユーロでの出来が深く関係しているのだろう。イニエスタはあのとき体調不良でほとんど活躍できなかった。

 ところで、この30名発表を前に、トーレスが面白い発言をしている。

 「(スペインでは)カシージャス応援キャンペーンが張られている。盲目でなければわかるはずだ。僕だってバロンドール賞に相応しいのはカシージャスだと思ってるし、誰よりも先にそう言ってやる。でも、ビジャやシャビや僕自身だって候補だろ。なのに、誰もそう言おうとしない」

 フランスのレキップ紙に掲載されたインタビューだ。

 なるほど、彼がいうキャンペーンの主体はマドリーに本拠を置くメディアで、たとえばスポーツ紙最大手のマルカなどは、10月の頭ぐらいからこちら、「カシージャス」と「バロンドール賞」の2単語をやたら並べてきた。不必要、不自然なほどに。

 しかし、中立・公正という意識を持たないのがスペインのスポーツメディアである。この手の偏りは当たり前。だから、わざわざ口に出して言うほどのことではないと思っていたのだが、トーレスはそうは感じていなかったようだ。「こんな風に、どのクラブにいるかで扱いに差が出るのは気に入らない」と、そのあと続けている。

 翻ってマルカ紙の立場から考えると、カシージャスを推すのは妥当だろう。トーレスは「レアル・マドリー所属だから」と訝しんでいるが、彼はヨーロッパ王者であると同時にスペイン王者でもある。バロンドール賞で重要視されるタイトルの観点からいうと、受賞の可能性は7人の中で最も高い。売り上げを延ばすためにも、勝ち馬に乗るのは当然だ。セルヒオ・ラモスもレアル・マドリーの選手だけれど、優勝貢献度でやや劣る。

 ただし、夢があるのはシャビの方だ。マドリーのメディアがバルサ所属のカタルーニャ人であるシャビを支持するわけにはいかないが、肉体的に恵まれた選手が幅を利かせる中盤で、彼は技術の大切さを改めて知らしめた。スペイン代表にああいうサッカーができたのはシャビがいたからだし、1年間のパフォーマンスで判断しても、選ばれる資格は十分ある。だが、いかんせん、昨季のバルサは弱かった。カシージャスよりタイトルがひとつ少ない。それから、致命的なことに、シャビには華がない。メディアに好まれない。

 世の中がロナウジーニョ一色だった2年前、やはり派手さに欠けるアルゼンチンのリケルメについて、当時のアルゼンチン代表監督ペケルマンがこんなことを言っていた。

 「彼がもしブラジルでプレイしていたら『リケルミーニョ』と呼ばれ、世界一になっていただろう」

 シャビも髪を伸ばし、大きめのヘッドフォンでリズムの強い音楽を聴き、ヒップホップ系のファッションでカンプ・ノウに出入りしていたら──“シャビーニョ”になっていたら──、今年のナンバーワンに選ばれる可能性は今よりずっと上だったのではないか。もっとも本人はバロンドール賞など何処吹く風で、「候補に挙げられるだけで光栄。サッカーはチームスポーツだから、個人タイトルは二の次」と男前なことを言っているが。

 スペインサッカー界にとってバロンドール賞受賞は悲願だ。1956年に始まった同賞の歴史にあるスペイン人の名前は'60年のルイス・スアレスだけ。'57年と'59年の2度受賞しているディ・ステファノも国籍はスペインだが出身はアルゼンチン。純粋な“同胞”ではない。44年ぶりにヨーロッパを制した今年は、何としても手に入れたい。

 が、実は非常にイヤな前例がある。

 初の欧州王者となったその44年前、スペイン代表のルイス・スアレスとアマンシオの2人を押しのけバロンドール賞に選ばれたのはマンチェスター・ユナイテッドのデニス・ローだった。

 いま、ユナイテッドにはクリスティアーノ・ロナウドがいる。

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