カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:新潟「もらいタバコ。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2008/10/15 00:00
タバコが体に悪いことはよく分かっている。さして美味しいとも思わないタバコを
惰性で吸い続けることも良くない。ただし、時にはストレス解消のために吸わずに
いられないこともあるし、もらいタバコをして一緒に吸うほうがいいこともあるのだ。
いま僕の回りは禁煙ブーム。とりわけ目立つのは男性で、UAE戦取材のためにドライバー役として東京~新潟間を往復してくれた某君も、かれこれ2カ月近く続けている。おかげで、車内に煙が立ちこめ、受動喫煙を強いられることはなかった。
そうなのである。僕もまた禁煙を続けている。6月のユーロ以来だから、かれこれ4カ月。これまでにも何度か禁煙にトライした経験はあるが、最長記録は2カ月だった。それをすでに2カ月更新している今回は、大きな期待が持てそうである。
もっとも、完全に断っているわけではない。買わなくなって4カ月と言うべきだろう。打ち合わせの席やお酒の席に喫煙者がいる場合には、“もらいタバコ”をさせてもらっている。
セコイ野郎と罵る人もいるだろう。僕も、喫煙者だった頃はそう思ったものだ。自分では買わずにもらいタバコをする人を、少しばかり冷たい目で見ていたフシがある。しかし、“こちら側”の世界に身を委ねてみると、“向こう側”にひと言、モノ申したい気分になる。
僕がもらいタバコに走るのも、アナタが吸うからなんですよ。人の煙を吸うくらいなら、自分で吸ったほうがマシ。
少々強引ではあるけれど、理屈にはしっかり筋が通っている。
喫煙者ではない僕を目の前にして、中には、タバコに火をつけそびれている喫煙者もいる。こちらに気を遣っていることが確認できた場合も、僕はもらいタバコに走ることにしている。そうしたほうが場は丸く収まるのだ。喫煙者にとって、喫煙を我慢するほど苦痛なことはない。気遣う相手が僕だった場合は、なおさらである。そこで「ご遠慮なく吸ってください」と言うより、「僕にも一本くれませんか」と言ったほうが、相手は救われた気分になるはずだ。もらいタバコは、実は僕の人に対する思いやりから来ているわけである。セコくて卑しい野郎だからではない。
禁煙者になってみると、タバコが美味しく感じられるから面白い。喫煙者の頃、それを実感する瞬間は決して多くなかった。美味いから吸うというより、その習慣性に侵され、惰性で吸っているケースのほうが圧倒的に多かった。
タバコに変な習慣性さえなければ、相変わらず僕は“向こう側”の世界に身を委ねていたかも知れない。あまり美味しいとは思わないタバコを、いつまでも吸っている自分に嫌気がさしたことが今回の禁煙の動機に他ならないが、たまに吸うタバコは確かに美味いのだ。つい向こう側の世界に行きたい衝動に駆られるが、タバコはいつでも美味しいワケじゃない。不味く感じることのほうが多いという現実を踏まえると、やっぱり向こう側に行く気持ちは萎える。4カ月もタバコを買っていない、それこそが最大の理由だ。
とはいえその間、体重は増え続けている。口寂しくなり、つい食べてしまうのだ。世の中、上手くいかないものである。何かしら、運動をすべきなのだろうけれど……。
もっとも、世の中には、運動をすることを職業にしているくせに、タバコを吸う人がいる。ゴルフの選手なら分かる気がする。心を静めるために一服したくなる気持ちはよく分かる。野球の選手もしかり。実際、試合中にダッグアウト裏で一服する選手は少なくないという。
さすがにサッカー選手は少なそうに見える。1試合で10km以上も走らなければならないサッカーは、喫煙者にとって厄介なスポーツだ。しかし、プロ選手ともなれば喫煙率は相当低いはずだと思いきや、実際はさにあらず。喫煙者は、思いの外、多くいる。日本代表選手にもしっかりいる。むろん、海外の一流選手の中にもかなりいる。
プロ選手とあろう者が、なぜ、そんな自虐的な行為に走るのか。さして美味しくもないタバコを、せっせと吸うのか。
その最大の目的は、ストレス発散だろう。サッカー選手ほど、ストレスを抱えた人種も珍しい。僕はそう思う。なぜなら、評価に絶対的な尺度がないからだ。出場できるか否かは、監督の目に適うか否か。ひとえにここにかかっている。個人成績が一目瞭然となる野球やゴルフとは違う。よく恩師などと言われることもある監督だが、アイツが監督じゃなかったら、俺は今頃スタメンだと思っているサブ選手は多い。
日本代表などはその最たる例だ。ジーコ、オシム、岡田サンと続く、最近の3人の代表監督の選手起用法を見れば、サッカーの特殊性は明白になる。タバコでも吸っていないとやってられない気分になる。僕が代表選手なら、禁煙は続いていないに違いない。メディアの前では、岡チャンへの不平不満をグッと抑え、陰でこそこそ煙を吸い込みながら、ストレスを発散しているに違いない。