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マイスターへの渇望。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2008/08/26 00:00

マイスターへの渇望。<Number Web> photograph by AFLO

 ブンデスリーガ開幕戦は、バイエルンとブレーメンがともに引き分け、シャルケは完勝、話題の昇格組ホッフェンハイムが見事に初陣を飾るなど興味深い結果となった。そこで今回は現地からの情報を基に、大胆にも各チームの今季の行方を占ってみることにする。

 まず優勝候補だが、これは全18チームの監督が声を揃えて「バイエルン」と答えているので、私もバイエルンにしておく(付和雷同だぞ!)。でも、バイエルン優勝なんて、予定調和みたいで全然面白くない展開だ。あれだけの陣営なんだから万が一優勝を逃したりしたら、巨額の罰金を払わせたらいいかもしれない。

 そうなると別の優勝候補を探したくなるのが人情である。そこで私が押すのがシャルケ、ブレーメン、ヴォルフスブルクだ。

 シャルケの“マイスターへの渇望”には、すさまじい執念を感じる。国内王者まであと一歩、いや半歩のところまで来ている。そのためにだったら、何でもやってしまうようなムードに支配されている。優勝すれば実に50年ぶりの快挙となる。モチベーションの高さは随一だ。もっとも、十八番のお家騒動さえなければ、の前提条件付きであるが。私自身もけっこう半信半疑なのだ。

 安定感抜群のブレーメンは取りこぼしが少ないのでマークする必要があるだろう。CLでの弱さは噴飯ものだが、国内では非常に安定しているため、「気がつけば首位だった」なんて展開もあるかもしれない。しかし、このチームって監督も選手も地味ですねぇ。ディエゴがいなければ応援する気が湧かないのである。

 そしてヴォルフスブルク。意外だと思うなかれ。実は昨季終盤から今季開幕戦まで5連勝していて、7試合負けなし、隠れた優勝候補なのである。クラブは世界的自動車メーカー『フォルクスワーゲン』が所有する。それゆえ資金にはまったく困らない。

 ヴォルフスブルクが抱える保有選手数は35人とリーグ最多。給料支払い総額はバイエルンの132億円に次ぐ107億円。これだけ支払っていても、今季はイタリア代表DF2人の獲得に33億円をかけるなど、積極的にチーム強化を図っている。バイエルンのヘーネスGMは「最も危険なチーム」として、このヴォルフスブルクを真っ先に挙げている。それほど彼らのポテンシャルは脅威なのである。よくある“多すぎる外国人”問題もヴォルフスブルクには通じない。開幕戦は先発11人のうち外国人8人全員が代表選手だった。しかしこの街イコール「この会社」の従業員の多くが外国人であるため、むしろ歓迎すべき傾向かもしれない。

 優勝はありえないが、台風の眼となるのがホッフェンハイムとボルシアMGだ。両方とも昇格組で無名の選手が揃う。それでもチーム力は2部リーグ時代に群を抜いていた。ボルシアでは19歳で170センチと小柄なMFマリンに注目してもらいたい。20日の代表戦(対ベルギー)では出場2試合目で初ゴールを決めた。こういう期待の星がいるチームって思わず応援したくなるのだ。私がボルシアを応援してから、もう30年が経つ。死ぬまでにもう一度優勝シーンを見てみたいものだ(涙)。

 ホッフェンハイムについては、億万長者で高齢のオーナーが元気でいるのを願うだけである。オーナーに万が一のことでも発生したら、クラブの行方はどうなるか分からない。

 忘れちゃいけないのがドルトムントである。7年前の優勝をピークに毎年順位を落とし続け、昨季はついに13位まで降下した。そこでチーム復活のカンフル剤として登用されたのがクロップ監督だ。41歳と若く、選手たちの兄貴的存在である。実際、彼の会話は「俺ってさぁ、〜〜じゃん。それも〜〜とかさぁ、〜〜なんだよね」と親しみやすい。ところがテレビの解説では難しい戦術の話を理路整然と説明し、その内容も非常に専門的。あるアンケート調査によれば、ネッツァー、ヒッツフェルト、マイヤー(スイスの審判)らを抑え、「クロップの解説がもっとも分かりやすい」の評価を得た。隣町のシャルケ同様、お調子者揃いで少々頭脳細胞が足りないドルトムントにとり、うってつけの指導者ではなかろうか。同時に新しい10番のプレーヤーにも期待したい。といっても『ジダン』という名前に対してだが。

 問題を抱えるチームは、フランクフルト、ボーフム、ケルン、シュツットガルトで決まりだ。

 フランクフルトのファンはバイエルン、シャルケと並ぶほど熱狂的。そんな彼らはチームの実力を一切顧みず、過大な要求ばかりをしてくる。昨季の9位は出来過ぎだと思うが、ファンとしては「去年が9位だったら、今年はそれ以上だ」と乱暴な論法で無意味なプレッシャーをかけ、成功体験が少なく優勝経験ゼロのフンケル監督を苦しめるだろう。

 ボーフムは例によって残留争いに巻き込まれそうだ。これまでチームを下支えしていたGMが辞任したことで、苦境に陥った際の対処が誰もできないのではなかろうか。「ボー」とした顔で「フム、フム」と関心している場合ではないのだ(オヤジギャグを言うなって)。

 ケルンは監督の動向が心配の種である。なにしろダオムという人物、上昇志向が強いため、新たなチャレンジの場が見つかるとサッサとケルンから離れてしまう恐れがある。それを阻止するためにもチームは上位争いに食い込まなければならないが、現状の戦力を考えると厳しいと言わざるをえない。

 シュツットガルトの若手サクセスストーリーはとりあえず“小休止”なのだろうか。ゴメス、ケディラ、タスチはどうしたというんだ? 成長が止まったとは思いたくない。この局面に大ベテランのGKレーマンが加入した。18歳も離れた大人相手に若手が委縮しないことを祈りたい。

 降格の恐怖と闘うのはKSC、コットブス、ビーレフェルトになるはずだ。理由はまぁ、ありきたりなので割愛する。

 ここまで書いたところ、第2節の結果が出た。ブレーメン対シャルケは1−1、バイエルンはまたもやドロー、ホッフェンハイムがボルシアMGを1−0で破っただと? 2連勝のホッフェンハイムがいきなり首位に立ったではないか。ビリはボルシアですか、トホホ。

 予想を超える現実のショックはファンを楽しませてくれる。これだからブンデスリーガは面白いのである。しかしバイエルン、大丈夫かなぁ……。

ユルゲン・クロップ
マルコ・マリン
シャルケ
ブレーメン
バイエルン

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