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高原直泰 オシムに買われた男。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
posted2007/07/12 23:52
ペルー戦後にオシムは俊輔について辛口のコメントをした。しかし、チームで一緒にいるときは、俊輔のことを非常に高く評価しているのである。選手に対してと、マスコミに対しての顔を巧みに変化させる。選手を守るために、記者会見ではあえて本音を言わないのだ。記者からすればこれほど厄介な相手はいないが、選手からすればこれほど頼りになる指揮官もいない。高原がオシムに対して好印象を抱かないはずがないだろう。
ドイツ語で直接話せることも大きかった。練習の合間には、ドイツ・ワールドカップで使用された公式球について冗談を言い合った。
「メーカーさんに悪いんで、何を話したかは言えませんよ」
練習後に高原はそう話して、報道陣を笑わせた。何気ない雑談をすることで、関係はより良好なものになっていった。
高原がオシムを優れた監督だと感じた一方で、逆になぜオシムは高原を評価するようになったのだろうか?― 初参加のペルー戦で鮮やかなトラップから豪快なゴールを決めたということもあるが、それ以上に高原のプレースタイルが関係していると思われる。
ジュビロ磐田でもフランクフルトでも、高原が一貫して得意としている動きのひとつに、前線からトップ下に戻ってのポストプレーがある。FWの位置でじっと待つのではなく、攻撃にアクセントを加えるために、トップ下の位置に走りこんでワンタッチでボールをさばいたり、もしくは機を見て反転してドリブルを始めたり。一昔前のベルカンプの動きに似ている。
ペルー戦に続きゴールを決めたモンテネグロ戦後、高原は言った。
「相手の状況を見てオレがちょっと引いてボールをもらいに行くと、2列目がどんどん飛び出してくれた。そのへんで相手のマークがうまくずれた。ピッチを広く動くという自分のプレースタイルが、少しずつ浸透してきてるのかなと思います。2列目の飛び出しがあったことで、引き気味の相手に効果的だったと思う」
オシムは前線に飛び出すことができる機動力のある選手を2列目に起用するのを好む。たとえば羽生直剛のような。
そうしたタイプのMFと高原の相性は抜群にいい。高原は自分でドリブル突破することもできるが、コンビネーション・プレーをより好むFWである。残念ながらサッカー文化の異なるドイツではせっかくスペースを作っても前線に走りこんでくれる選手が少ないが、今の日本代表なら生きのいいMFたちが槍のようにスペースを串刺しにしてくれる。オシムが選ぶ中盤のキャストに、高原ほど適役なFWは現在の日本には存在しない。
「戦術理解度の高さ」も、高評価の理由のひとつだろう。
オシムの練習法はまるで魔術のようにマスコミから崇められているが、高原はもっと冷静な視点を持っている。
「頭を使うというよりは、当たり前のことを当たり前にするってことですよね。パスを出したら動く。要は、それの徹底。そういう意識づけを全員が当たり前のようにできるようにするってことなのかな、と思いました。もっとレベルがあがっていけば、もっといろんなところにつながっていくんだと思います。あとは選手のほうがどう感じとってピッチの上でできるか。言われたことだけをやってればいいのではない。状況に応じた判断ができるかが大事」
前出の祖母井氏は、オシムの練習の特殊性をこう解説する。