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高原直泰 オシムに買われた男。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
posted2007/07/12 23:52
成田空港に到着した代理人トーマス・クロートはイライラしていた。
「何度訊かれても、これはオシムが決めることなんだ。タカがアジアカップに参加するかどうかはオシムに訊いてくれ!」
高原直泰が所属するアイントラハト・フランクフルトは、高原のアジアカップ参加に難色を示していた。今季チーム最高の11得点をあげたストライカーには、万全のコンディションで8月のブンデスリーガ開幕を迎えて欲しいと考えたからである。そこでフランクフルトは日本サッカー協会との交渉役として、高原の代理人であるクロートを日本に派遣した。彼からすればとんだとばっちりだが、普段世話になっている取引先から頼まれたのだから仕方がない。
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6月5日、コロンビア戦当日、クロートは日本サッカー協会の小野剛技術委員長との話し合いの席についた。小野氏はクロートにこう伝えた。
「オシムは『高原は現時点で日本最高のFW。高原はアジアカップに不可欠な選手』と言っています。招集を認めてください」
クロートはオシムに直接会って話したわけではないが、彼の熱意は十分に伝わってきた。フランクフルト側は渋々ながら高原の招集を許可することになる。
この一連の経過を、オシムを昔からよく知る人が聞いたら、ひどく驚くかもしれない。あのオシムが反対を押し切ってまでひとりの選手にこだわることがあるのか、と。
これまでオシムは、選手を選ぶことに執着しない監督だった。オシムがジェフ千葉の監督時代にGMを務めた、祖母井秀隆氏(現グルノーブルGM)は言う。
「オシムさんから『この選手を獲って欲しい』と言われたことは1度もありません。彼は自分が人を判断することを嫌うんですよ」
チャンピオンズリーグに出場したシュトルム・グラーツ時代も、オシムは選手補強について一切リクエストしなかった。わざわざ買い物をしなくても、冷蔵庫のなかの食材だけでおいしい料理を作れてしまう人なのだろう。
だが今回は違った。
クラブを説得してまで、高原を招集したのである。「買い物をしない監督」がわざわざ外国から買いつけた選手──。オシムが目指すサッカーを完成させるために、高原は欠かすことのできないパーツなのだ。
オシムが評価する高原のプレースタイル。
2人の関係は、当初から順調だった。
高原とオシムのファーストコンタクトは、3月のペルー戦を控えた練習時である。通常のメニューが終ったあと、オシムは初参加の高原と中村俊輔を呼びつけて、居残りでシュート練習をさせた。オシムは高原の耳元で、そっとドイツ語でささやいた。
「これはマスコミへのサービスだから」
予想通り、報道陣のカメラと視線はこのシュート練習に釘付けになる。この監督、なかなかシャレのわかる人らしい。
オシムがマスコミをうまく操作していると感じたのは、このときだけではなかった。