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短期決戦の醍醐味を味わう。原博実×中西哲生(後編)
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2008/06/12 18:11
原 オランダはどうだろうね。セードルフが辞退したけど、監督のファンバステンと揉めたのかな。いつも内紛が起こるからね。
中西 僕も、何かあったのかなって思いました。セードルフは親分肌で、選手と監督のパイプ役にもなる。その彼が外れたのは心配ですね。でも考えてみれば、初戦がオランダ対イタリアですよ、ワールドカップでも何十年に一度っていう対戦じゃないですか。想像するだけでテンションが上がってきます。オランダって弱いチームに弱いんですよ。あっさり負けたりする。でも、相手が強いとかなりやる。ですから、この死のグループは彼らにとって悪くないかもしれない。
原 そういう見方もあるね(笑)。でも、オランダって人材はいる。ファンペルシなんて最高にいい選手。でもケガが長かったからね。
中西 そうなんです。まだフィットしてないようで。メチャクチャいい選手ですけど。
原 イタリアは堅い。となれば、もうひとつはフランスかオランダか、難しいなあ……。
中西 フランスはずっこけるかも。世代交代の狭間で悩んでいます。いくらでも若いタレントがいるのに、いまだにビエラ、マケレレに中盤を任せてる。創造性がないじゃないですか。
原 ローマのメクセスって優秀なセンターバックだけど、ドメネク監督は使わないね。アンリとアネルカのツートップも、一向に噛み合う気配がない。このコンビでいいのかな?― ベンゼマを見たいね。
中西 予選で世代交代しなかったことを考えると、結局、本大会でも変わらないんでしょうね。ナスリ、ベンゼマ、フラミニ、メクセス……これだけいるのに、結局ベテランに頼るんでしょうね。
原 たしかにフランスは監督がネックだな。ユーロは短期勝負だから、コンディションのいい選手、モチベーションの高い選手を監督が見極められるかが大事になってくる。そこを見誤ると取り返しのつかないことになるんだから。監督が占めるウェイトは大きいよ。
中西 サッカーが均質化されたいまの時代、目新しい戦術なんかは出てこない。そうなると、セレクターとしての監督の能力が重要になってきますよね。短期間で勢いを出す人選、組み合わせを見出せるか否か。
原 そうなるとロシアのヒディンクが面白いよね。思い切った采配をしてくるから。
中西 チェコのブリュックナー監督も、いいと思いますよ。彼、前回大会のオランダ戦で0対2から大逆転をやってのけたんです。その采配が凄かった。毒をもって毒を制するという感じなんですが、同時に物凄く理にかなった交代で。あれはシビれましたね。
原 短期決戦の面白さは、全然ダメと思われてたチームが凄くまとまったり、強いと思われたチームが崩壊したりすることだよね。良くも悪くも劇的に変わる。その意味ではチームの雰囲気って大事になるよね。
中西 前回のポルトガルなんか、そうでしたね。開幕戦でギリシャに負けたときはどうなるかと思った。それがどんどん良くなって決勝に進出、優勝パターンだと思ったけどなあ。でも間違いなくいえるのは、勝つチームって雰囲気がいいんです。
──文化祭で一致団結するクラスみたいな感じですか?
中西 そう、一体感と勢いが次第に出てくるというか。ゴールが決まったらピッチの11人だけじゃなくて、ベンチも丸ごと喜ぶようなチームじゃないと優勝できないんです。その意味で、監督がいいムードを作り出せるかが重要になってくる。レギュラーだけじゃなくて、みんなが必要なんだといって選手たちを共存させるような。
原 ちょっと前までディ・リービオっていたよね。イタリアの小さくて、よく働く選手。ベンチ要員だけど、大きな大会ではいつも代表に入ってるの。あれ、きっとムードメーカーとしても選ばれてると思うんだ。一生懸命練習して、声を出して、仲間からいじられる。ああいう選手がいるといいんだよね。
中西 ええ、だれかが冷めていたら勝てないですもんね。そのためには、ボーナスだって全員に同じ額が行き渡るようにしておかないと。試合に出た人ばかりがもらう、そんなチームは上手く行かない。
原 例えば、自分がベンチにいて、クラブで敵として対戦してる選手が試合に出て活躍している。そうなっても応援してあげて、一緒に喜べるチームはいいよね。控えキーパーがレギュラーに、PKを蹴る敵のクセをアドバイスしたり。
──決勝トーナメントについて予想していただきましたが、お二人ともベスト4はポルトガル、ドイツ、イタリア、スペインという顔ぶれになっていますね。
中西 いや、クロアチアがポルトガルに勝つことだって考えられますよ。このカードが実現したら、大会屈指の好ゲームになるかも。クロアチアって、凄くいいチームになりましたよ。ワールドカップで日本と引き分けたころの面影はないですもん。
原 モドリッチなんて凄い才能だよね。
中西 球の持ち出し方がクライフぽくって。
原 そう、エレガントなんだよね。
中西 若手のナンバーワン。そういえば、ピクシー(名古屋のストイコビッチ監督)も注目してるって言ってましたよ。
──あ、いままでドイツに触れてなかったですね。優勝候補という声も多いですけど。
原 ドイツはいいんだ、黙っていても勝ち上がるから。イタリアと一緒。
中西 硬直化したフランスと違って、世代交代して2006年ドイツW杯で結果を出した。バラックがいて、フリンクスがいて、クローゼがいて、ゴメスという若手もいる。例によって強そうですね。
原 強いよね。上手いじゃなくって強いって感じ。いつの間にか勝ち上がっていく、PK戦に強い。そういう歴史を持っているよ。
中西 そういえば、右サイドのシュナイダーが手術をして欠場することになったんです。その彼の穴が埋まるかどうか。でも、不安材料なんてそれくらいですから。チームとしてのまとまりもありますし。
原 準決勝はポルトガル対ドイツ、イタリア対スペイン。当たらないだろうけどね(笑)。
中西 面白いチームと現実的なチームの対戦ですね。理想主義と現実主義、どちらを取るか。僕はやっぱり理想の美しさを選びますが、実際はどうなるのかなあ。
原 いずれにしろ、新鮮味のあるところが優勝に絡んでほしいな。希望をいえばスペイン、でもドイツやイタリアが優勝したって、それはそれでいいよ。必ず新しいスターが出てくるはずだから。
中西 でも、やっぱりスペインがいいなあ。代表チームが勝つことで、国が統一される。政治じゃなくて、サッカーで国が変わるんです。そんな空想をしてるんです。
原 いいねえ、そうなったら。