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斉藤和巳 242球、報われず。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2006/10/26 00:09

 「試合に出られる幸せをかみしめ、自分にできることを全部やれ。自分の力を信じること。どんな言葉よりも自分の背中でチームを引っ張ってゆけ。今のお前ならば絶対にいける」

 力強い小久保の言葉。それは斉藤が今シーズン実行してきたことでもあった。

 本拠地の練習では一番に球場入りし、自分が登板しない日でもベンチ横から若手にハッパをかけた。結果を出してチームを引っ張る。そういう気持ちの張りが、18勝5敗、防御率1.75、奪三振205、勝率7割8分3厘、完封勝利5と投手部門5冠の偉業になって表れたのだ。そんな記録について聞かれても、「記録は個人のもの。プレーオフを勝ち抜き、シリーズで日本一になってこそ輝いてくる」とまったく気に留めなかった。

 プレーオフ第1ステージ初戦。西武・松坂大輔と投げ合っての9回115球は、たった一度のピンチを守れなかった。力ずくで勝負する斉藤に対して、ボール球を有効に使う松坂。敗れた斉藤は「オレの方が青臭かった」と反省した。その一方で打てなかったナインは、「このままでは和巳に申し訳ない。何としても和巳をプレーオフでもう一度投げさせたい」を合い言葉に気持ちをひとつにした。

 その二度目の登板が2勝を先行された背水の陣だった。中4日で上がったマウンドで、斉藤は「初戦のように力任せではなく、相手のタイミングを外す頭脳的な投球」(捕手・的場直樹)を心がけた。

 「点を許さないのがエース。味方が点を取ってくれるまでいかに粘れるかで、ナインに信頼される。そうでなくてはエースじゃない」

 常々そう口にする斉藤だが、またしてもたった一度のピンチで与えてはいけない1点を許してしまった。ソフトバンクは3年続けてプレーオフ第2ステージで敗れ、日本シリーズ出場が潰えた。そして、病魔と闘う王監督を胴上げするという夢も実現できなかった。

 斉藤自身、過去3年間のプレーオフで4試合に登板しながら、いまだ1勝も挙げていない。今年も2試合で許した得点は“2”だが、味方打線の援護はまったくなかった。

 「点を取れないのだったら、取ってくれるまで我慢を続けて0点に抑えればいい。それをできなかった自分が悪い」

 斉藤はそんな打線についてもまったく口にすることはなく、ただ自分を責めた。プロ入り後7年間、故障などでまったく勝てなかった時代があった。ようやく晴れの舞台に立った'03年にナインやファンに支えられての日本一を経験しているからこその、“何としても我慢しなければ”という心境だったのだ。

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