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斉藤和巳 242球、報われず。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2006/10/26 00:09

 日本ハムとのプレーオフ第2ステージ初戦に敗れたソフトバンクは、いきなりもう後がない状態に追い込まれた。

 迎えた第2戦。ソフトバンク・斉藤和巳と日本ハム・八木智哉の息詰まる投げ合いは、とうとう0-0のまま9回裏に入っていた。

 8回まで日本ハムを散発4安打と抑え込んでいた斉藤は、先頭の森本稀哲を四球で歩かせ、続く田中賢介に送りバントを許した。そして小笠原道大を敬遠し、1アウト一、二塁。ここでセギノールを空振り三振に仕留め、2アウトにこぎ着けて打席に稲葉篤紀を迎えた。

 カウント0-1から斉藤が投じた渾身のストレートを稲葉が振り抜く。センター前に抜けそうな打球を、セカンドの仲澤忠厚がギリギリでキャッチ。二塁に入った川埼宗則にトスするも、間一髪で判定はセーフ。その間に森本がサヨナラのホームへ滑り込んだ。

 127球目の悪夢だった。ガックリとマウンドに崩れ落ちる斉藤。立ち上がれず、ズレータとカブレラに抱きかかえられ、ベンチに戻りながら人前かまわず大きな声で泣いた。それはロッカーに戻ってからも続いた。

 「今までの“張り”が一気に出た感じ。精も根も使い果たしたようにどっと出た」

 一番最後にバスに乗り込もうとする斉藤は、そう言った後、こうも続けた。

 「なんとか王さんの待つ福岡まで戻りたかった。地元に帰れば流れがウチにくると思ってがんばったが、どうしても勝利を引き寄せられなかった。それだけ、日ハムは強かった」

 斉藤が福岡に帰れば何とかなると言うのには理由があった。阪神と日本シリーズを戦った'03年のことだ。地元・福岡で2連勝したダイエー(当時)は、甲子園で3連敗して、福岡に戻ってきた。逆王手をかけられて傷心のナインを迎えたのは、博多駅に集まった3000人のファンだった。そこには罵声はひとつもなく、温かい励ましの声ばかりだった。それが後の2連勝の支えになったのだ。

 「今でもあの場面が目に浮かびます。困ったときほど福岡のファンは温かい。だからどうしても福岡に戻りたかった」

 このプレーオフの前、斉藤は兄貴分として慕う小久保裕紀(現・巨人)に連絡を入れた。昨秋、選手会長に就任した斉藤が、王監督不在の戦いでどうチームをまとめるべきか助言を求めたのだ。

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