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岡田ジャパン スリリングな幕開け。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byTamon Matsuzono

posted2008/09/04 19:07

岡田ジャパン スリリングな幕開け。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 頼りない、という思いを抱かずにいられなかった。9月6日のバーレーン戦が、とてつもなく不安である。

 ウルグアイは久しぶりに“本気モード”で来日したチームだった。タテに速く、局面で激しく、何よりも試合の流れを読む嗅覚が鋭敏だった。名将タバレスが作り上げてきたチームだけのことはある。

 ただ、どうしようもないほどレベルの差があったわけでもない。戦い方次第では、際どい試合に持ち込むことはできた。何人かの選手をテストしたなかでも、である。

 ホームにウルグアイを迎えるテストマッチと、敵地に乗り込むW杯予選で、選手にかかるプレッシャーを比べてみる。負けられないという意味では、後者のほうがのしかかるものは重く大きい。ウルグアイが破格のモチベーションで臨んできたとはいえ、1-3を「完敗だった」(岡田武史監督)で終わらせていいはずはない。

 3次予選から持ち越している課題は、試合運びの単調さにある。「自分たちのサッカー」に縛られるあまりに、試合の流れや相手の狙いを踏まえたサッカーができていないのだ。極論すれば、いつも同じリズムでボールを動かしている。電光掲示板にスコアが表示されなければ、勝っているのか負けているのかが分からないようなサッカーなのである。

 約2カ月ぶりの試合となったウルグアイ戦でも、日本は同じ過ちを犯している。

 後半開始直後の48分、オウンゴールで先制するという幸運に恵まれた。ここで重要なのは、試合を膠着させることだ。無理に出ていく必要はないし、自陣ではとにかくセーフティにプレーする。追加点を狙うのは、相手がリスクを背負ってきてからで十分だ。リードを奪った際の常套手段で、格上の相手ならリスク管理は慎重を極めなければならない。

 それはまた、ウルグアイ戦の日本にふわさしい戦略でもあった。一発のスルーパスを出せる小野伸二と中村憲剛がいて、スピードのある玉田圭司と田中達也が前線に並んでいるのだ。後半からは長友佑都が左サイドバックに入っていたから、アップダウンのできる2人が両サイドに揃ってもいた。ウルグアイをおびき寄せれば、選手個々の特徴を効率良く生かせる。得点の可能性が高まる。

小野のパフォーマンスは想定内。新たな発見ではない。

 ここで戦況を見誤るのが、このチームの悪癖である。同点ゴールを決めた選手は、ストライカーではない。中盤の選手にフリーでシュートを打たれているのだ。なぜ、2列目からの飛び込みを許してしまうのか。

 同点弾だけではない。先制から3分後には決定機を許していたし、自陣でパスカットされるという致命傷になりかねないミスも犯していた。すぐに追いつかれてはいけないという危機意識が希薄だったのは明白で、つまりは、「自分たちのサッカー」をしようとしていたからに他ならない。

 ボールを落ち着かせられる中村俊輔や遠藤保仁がいれば、試合の展開は違ったかもしれないだろう。しかし、彼らがいないから追いつかれてしまった、では困るのだ。

 いかにしてリードを保ち、どうやって相手を追い詰めていくか。それをチームとしてのスタンダードにしなければ、同じミスが繰り返される。選手たちがいつも口にするコミュニケーションとは、そういったミスを未然に防ぐために交わされるものではないのか。

 チームのコンセプトも消化しきれていない。

 岡田監督は前線からのプレスを要求しているが、そのためには全体をコンパクトに保つことが前提となる。最終ラインを押し上げることで一人ひとりのチェイスする距離が短縮され、2人目がすぐにサポートできるようにもなる。数的優位を作りやすくなり、体力を温存できる省エネ効果もある。

 ところが、とくに後半は最終ラインの高さを保てず、前半から休みなしにハードワークをしてきたツケを払わされることになっていた。押し上げがままならないのは、最終ラインだけの責任ではない。チームとしての意思統一の欠如が、ここでも原因にあげられる。

(以下、Number711号へ)

岡田武史
中村憲剛
玉田圭司
田中達也
長友佑都

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