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<箱根駅伝2010を読む> エースの背中が見せるもの。 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byAsami Enomoto

posted2010/01/01 08:00

<箱根駅伝2010を読む> エースの背中が見せるもの。<Number Web> photograph by Asami Enomoto
年々注目の高まる新春のレースは、学生達の晴れ舞台。だが、襷の重みを感じながら走ることの重圧は計り知れない。
なかでも各校の“エース”と呼ばれる選手が背負うものは特別だ。優勝候補に挙げられる5大学のエースが箱根路にかける気持ちと、監督が彼らに託す思いから、群雄割拠の戦国駅伝を見通す。

 紙一重のところに、栄光と蹉跌がある。

 前回は、前年度の優勝校駒澤大学がまさかのシード落ち。今回は、'07年度の優勝校である順天堂大学が早くも予選で姿を消した。

 まるで「戦国模様」と形容される昨今の箱根駅伝だが、確かにいま、かつてない下克上の風が吹いている。

 渦巻く勢力の中心にいるのは新興校。しかし、優勝争いに焦点を絞れば、むしろ目立つのは古豪の奮闘ぶりだ。伝統の襷(たすき)を旗印にスカウト合戦を制し、巧みな戦術と育成指導で王座復権の狼煙を上げる。

「20人抜き」の最強エース、ダニエル擁する日大の勢いは本物か。

 群雄ならび立つ状況だが、勢いで勝るのが過去12回の優勝経験を誇る日本大学である。

 前哨戦の出雲駅伝と全日本大学駅伝を制し、史上3校目となる3大駅伝制覇に王手をかける。箱根の優勝杯はかれこれ四半世紀以上も手にしていないが、古豪復活の可能性は十分ある、とみる。

 注目したいのは、エースの走り。

 チームの期待を一身に背負い、なおプレッシャーに負けることなく、勝利の一念を貫く存在。まさに各校の気風と実力が窺えるのがエースだが、日大のそれは際立っている。

 ギタウ・ダニエル。4年生。学生界最強の呼び声高いケニアからの刺客である。

 前回の箱根2区で記録した「20人抜き」の快走はいまだ記憶に新しい。1区でつまずいたチームをすぐさま立て直す見事な走り――これぞエースという活躍だったが、本人は「失敗です」と断言する。

「入りで入れ込みすぎて、後半がけっこうダメだったです。チームは2番まであがったけど、自分では失敗でした」

 なにせ目標が高い。いつかではなく、近い将来に「ハーフマラソンの世界記録を更新したい」と抱負を述べる。

「目標が高いと、いっぱい練習できるで。今の目標タイムで箱根を走れば、間違いなく区間新がとれる。箱根だけが私、区間記録を持ってないので、それはどうしても作りたい」

 来日して4年目。日本語の質問もその意図は完璧に伝わる。言葉尻に「で」という方言のような一語がまじるのはご愛敬だろう。

 レース前には必ず矢沢永吉のCDを聴く大の矢沢フリークでもあるが、今シーズン好調の理由がここに隠されている。

「最近よく聴くのは、新しいアルバムの曲で『Loser』。コーチがよく、入りに気をつけてとか、後半にペースアップしていこうってアドバイスをくれるけど、この曲のメロディがまさにそんな感じ。苦しくてもあきらめるなとか、歌詞もいい。私も苦しくなったら、この曲を思い出してがんばるで」

【次ページ】 ポイントはダニエルの起用区間。“箱根の鬼門”での投入も?

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