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<箱根駅伝2010を読む> エースの背中が見せるもの。
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byAsami Enomoto
posted2010/01/01 08:00
ポイントはダニエルの起用区間。“箱根の鬼門”での投入も?
注目は、切り札のダニエルをどの区間に配置するかだ。登りも得意なダニエルは、走りたい区間のひとつに「5区」を挙げる。
'06年の第82回大会から距離が延び、最長区間になった山の5区はどの監督も頭を悩ませる箱根の鬼門。エース投入でタイムを稼ぎたいところだが、もっともブレーキが出やすい区間だけに、ここでエースがつまずくと優勝どころかシード入りすら危うくなる。
日大の指揮を執る堀込隆ヘッドコーチは「個性を生かしながら、チームとしてどういうオーダーがベストか。最後までよく考えます」と慎重な姿勢を崩さない。
普通に考えれば、計算の立つ2区。温存する余裕があれば、コース終盤に登り坂が待ち受ける復路8区の起用も面白い。いずれにせよ日大は、ダニエルで起死回生を図るのではなく、リードをさらに広げる展開で起用できるかどうかに、優勝の行方がかかっている。
“山の神”に勝った柏原竜二が東洋大連覇の鍵を握る。
本命不在、5強とも6強とも言われる今回の箱根で、頭ひとつリードしているように思えるのが連覇を狙う東洋大学だ。
歴史の浅いイメージがあるが、同校もまた戦前の第14回大会に初出場の経験を持つ古株の一つ。前回の優勝は、出場67回目にしてようやく掴んだ初の栄冠だった。
その悲願達成の立役者、山の5区を天狗のごとく駆け抜け、金栗四三(かなぐりしぞう)杯を受賞した柏原竜二が、今シーズンも素晴らしい活躍を見せている。トラックも駅伝も、国内では日本人大学生相手に負け知らず。ユニバーシアードの1万mで唯一、競り負けたのが駒澤の宇賀地強だった。
学年が違うとはいえ、ライバル校のエース同士、当然意識はするだろう。
「負けた相手だからとかではなくて、自分は宇賀地さんの走りが好きなので(意識はします)。一歩も引かないし、こっちも一歩も引けない。ガツガツ行く感じが、たまらなく勝負していて楽しいです」
この無邪気なまでの闘争心で、大舞台でも自分を見失うことなく、勝負の世界に没頭していけるのが柏原の真骨頂だ。
思えば前回、5区を志願したのも“神”の持つ記録への好奇心からだった。同郷福島の先輩、「山の神」の異名をとった今井正人の幻影を追って、ペース配分無視の走りであの驚愕の区間新記録を作った。
いまもタイム設定はあまり気にせず、自身の感覚や気持ちを大切にして走るという。
気合いが乗ったときはめっぽう強いが、裏を返せばそれは弱点にもなりかねない。