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“ドイツのオシム”は 浦和をどう変えるのか。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKai Sawabe
posted2009/02/12 00:00
――そういう攻撃サッカーは、どんな練習をすれば実現できるのか。どの監督でも、相手がボールを持っているときのトレーニングの方法論は持っていると思うんです。それに対して自分たちがボールを持っているときの練習は難しい……。
「そのとおりだ。多くの監督が練習の80%を、相手ボールのときの練習にあてている。だが、私は違う。マイボールのときの練習パターンが無数にある。キーワードはハンディだ。的確なハンディを持たせたゲームを行う。それをメディアに語ることはできないけれどね。試合で自分たちがボールを持っているとき、たくさんのパターンが出現する。もしそのパターンに対して、コンビネーションを練習しておけば、実戦で大きな武器になる。私自身たくさんのパターンを試して来たし、変更して来た。パターンの認識と反復練習がコンビネーション・フットボールを助けるんだ」
ここでフィンケが、ユーロ2008でスペインが優勝したときの新聞記事を取り出した。大会中、フィンケはスイス国営放送の依頼で、解説者として現地にいた。攻撃的なスペインが優勝したことを、自分のことのように喜んだという。
「今、サッカー界では相手にプレスをかけてボールを奪い、少ない手数で素早く攻めるやり方が流行している。ドイツ代表もそうだ。しかし、それはもはやモダンではない。スペインのように、焦らずにボールをまわし、相手の隙を見つけた瞬間、一気にスピードアップしてゴールを目指すやり方がモダンだ」
――次に「語る力」について聞かせてください。サッカーではあらゆる場面で選手とのコミュニケーション力が重要になると思います。
「コミュニケーションは私にとって、最も興味深く、最も難しい課題だ。たとえば今回、私が短期間に日本語を学ぶのは難しい。ちょっとした日常会話は覚えられるかもしれないが、監督の仕事には誤解があってはいけないからね。だから浦和では、練習を英語で行う。さらにドイツ語や日本語に堪能なコーチがいるので問題はない」
――コミュニケーションと言っても、直接的な言葉以外の要素もあります。言葉以外に重要なものは?
「監督が自分なりのアイデアを持っていることだ。アイデアがともなったフットボールは、それそのものが“言葉”なんだよ。日本人でも、中国人でも、アメリカ人でも、みんないっしょにプレーすれば、それがコミュニケーションだ。なぜ、世界中の人がサッカーを愛し、熱狂するのか。それはフットボールそのものが、第一の言葉だからだ。オレはここにいるぞ、というエモーションであり、怒りである。フットボールにおいては、多くのコミュニケーションが感情的になされる。フットボールのアイデアこそ、興味深いものだよ」
(続きは Number722号 で)