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長谷部誠 もっと激しく、もっと熱く。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2008/12/04 21:47
長谷部がドイツで得たのは強靱なフィジカルだけではない。ブンデスリーガでの熾烈なレギュラー争いにさらされることで、メンタル面でもたくましさを増した。
試合に欠場すれば、ほかの選手にチャンスを与えてしまう。そのため、疲労が残っていようが、目の前の試合に備えて最高の準備を心掛けてきた。
長谷部自身が「大きな収穫だった」と挙げた試合があった。それは日本で行なわれた10月15日のウズベキスタン戦のあと、チームに戻って中2日ながら出場したビーレフェルト戦だ。4-1の勝利に貢献し、チームでは約1カ月ぶりに先発フル出場を果たしたことが何よりも嬉しかった。合流したその日の練習から全力でアピールしたことで、先発の座をライバルたちに渡さなかった。
「移動のハンディはあっても、監督は使いたいと思えば使う。自分はそこで使われたい。監督に移動の疲れを感じさせては信頼を得られない。試合に出たら、そこでしっかりプレーしなければならない」
実際、ローテーション制を敷くヴォルフスブルクでは長谷部が控えに回ることもある。レギュラーをいつ外されるかもしれないという危機感は常に持っている。妥協していないか、全力でやれているか。自問自答して自分のプロ意識に甘さはないか、長谷部は日々確認している。
「私生活のすべてをサッカーに捧げろという監督なんで、自分にとっても新鮮ですし、一緒にやれてよかったと思っている。『プロはたくさんの人たちを喜ばせなければならない。そのためには普通の人の何十倍、何百倍も努力しないとだめだ』と言われたことが心に残っています。プロとしては当たり前のことなんだけど、いざやっているかと自分に問いかけたとき、以前はそこまでできていなかった。今は強い形で意識するようにやっている」
ゴール前に出て行くことが、自分に求められている。
ヴォルフスブルクでスタメンの座を射止めた経験は日本代表でもいかされている。周りの選手をよく観察して、独自性を打ち出す努力をしてきた。
「ヴォルフスブルクには、いい選手がたくさんいて、レギュラー争いに勝つためにはどうしたらいいか、自分のなかでよく考えるようにしている。どういうふうなプレーをすれば監督に使ってもらえるんだろうと。自分はドリブルがすごいわけでも、シュートがすごいわけでもない。だから、しっかりと考えてプレーしている自負があります。自分には突出したものがないから、攻撃と守備の両面でできるだけ高い水準に引き上げるしかなかった。ヴォルフスブルクには攻撃、守備のどちらかに持ち味が偏っている選手が多いので、両方で高い水準をキープしていると試合に出られるんじゃないかと考えてました」
岡田ジャパンでは、指揮官の要求していること、チームの追求していることをまずは知ろうとした。戦術は違えど、ヴォルフスブルクでのパフォーマンスが評価されて代表に呼ばれたのだから、ドイツでのプレーが基本になる。守備やプレーにおける激しさを心掛けるのがひとつ。攻撃では自分の役割をより明確にすることにした。岡田武史監督からは遠藤保仁とのダブルボランチが「攻撃重視型」と伝えられていた。
(続きは Number717号 で)