オリンピックへの道BACK NUMBER
海外で活躍するフィギュアの指導者。
米国代表のコーチはあの佐藤有香!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2009/12/21 10:30
ファイナル大会のキスアンドクライでおどけた表情を作るアボットと隣で微笑む佐藤コーチ。現役時代の佐藤の華麗なスケーティングを覚えてる人も多いはず
昨夏の北京五輪は、海外で指導する日本人コーチの活躍が目立った大会でもあった。シンクロナイズドスイミングでは、中国を指導し中国初の銅メダルをもたらした井村雅代氏と、スペインが銀メダルを獲得するのに大きく貢献した藤木麻祐子氏。また、アメリカの女子レスリングのコーチには、八田忠朗氏がいた。
バンクーバー五輪にも、そんな日本人コーチの姿があるかもしれない。
米国代表アボットが飛躍した陰には佐藤有香コーチがいた。
12月3日から6日、東京・代々木体育館でフィギュアスケートのグランプリ・ファイナルが行なわれた。織田信成、安藤美姫がそれぞれ2位となり、バンクーバー五輪代表に内定。また、女子では鈴木明子が3位となるなど、日本勢の活躍が目立った大会となった。
彼ら選手たちとともに、一人のコーチの姿に目がとまった。男子で4位となったジェレミー・アボット(アメリカ)を今シーズンから指導する佐藤有香氏である。アボットは、昨シーズンのグランプリ・ファイナル、全米選手権で初優勝するなど、飛躍を遂げた選手である。冬の競技で、海外のトップクラスの位置にいる選手を教える日本のコーチは珍しい。
佐藤氏は1992年のアルベールビル、1994年のリレハンメルと、2度オリンピックに出場し、それぞれ7位と5位となっている。また、1994年の世界選手権では伊藤みどり以来、日本選手では2人目(当時)となる優勝を遂げるなど、トップフィギュアスケーターとして活躍。引退後、プロフィギュアスケーターとして活動する一方で、指導や振り付けにもあたってきた。
五輪を目前に控えてのコーチ変更は異例の決断だった。
佐藤氏がアボットのコーチに就任したのは、今年5月のことである。アボットからの依頼を受けてのことだった。二人は、その少し前、韓国で行なわれたショーで出会い、フィギュアスケートをめぐって会話を交わしていた。佐藤氏の考え方に共感したことからの依頼だったが、佐藤氏も「驚いた」というように、突然のことだった。彼には、10年にわたって指導を仰いできたコーチもいた。
まして、今シーズンは、五輪シーズンでもある。重要な年に、長年コンビを組んできたコーチを変えるとは、そして、トップフィギュアスケーター指導の実績という点では決して多くはない佐藤氏に依頼するのは、思い切った決断であると同時に、リスクを背負う選択でもある。
その理由はいくつかある。アボットは飛躍を遂げた一方で、世界選手権では11位に終わり、さらにステップアップする必要があると考えていた。だが師事してきたコーチは、数名の有力選手を抱えるコーチであり、自分だけ見てもらうわけにはいかないこと。演技の不安定さがアボットの課題であったが、佐藤氏との会話、現役時代の演技を見て、「成功に至るまでの作業と規律を知っている人だ」と直感したことにあった。
こうして、五輪シーズンに、異例のコンビが誕生したのである。