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金本知憲 背中で語る男。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2008/10/09 19:39
「現役プレーヤーの中で、四番らしい選手を一人挙げるとすれば阪神タイガースの金本知憲だろう。(中略)打撃成績も四番としては合格だが、なんといっても、彼の場合は、試合を休まない姿勢がすばらしい」(『野村の「眼」』)
自らも「休まない4番」として中心選手でありつづけた野村監督からすれば、現役で4番の名に値するのはまず金本ということになるのだろう。
'04年の左手の剥離骨折や去年のひざ半月板の損傷など、休むのが当然と思われるようなケガをしながらも試合に出場しつづけ、4番打者らしい成績を残している金本は、それこそ「鋼鉄の肉体」の持ち主のように見られている。しかし、金本の強さを硬質の強さとだけでとらえるのは間違いだ。金本が連続試合出場記録を更新している背景には鋼とは違う、柔軟性に富んだ強さも潜んでいる。
5月7日のジャイアンツ戦で、金本は木佐貫洋から頭に死球を受けた。変化球ではなく141kmのストレートである。ヘルメットにはひび割れができた。衝撃の大きさがわかる。だが、立ち上がった金本は試合に出つづけたばかりか、6回には門倉健から右翼スタンドに本塁打を叩き込んだ。
鉄人伝説を彩る新たなエピソードではあるが、もし、硬質の強さだけの選手だったら、頭部への死球の影響は計り知れなかっただろう。瞬間的に危機を回避する、避けきれないまでもダメージを最小限に抑える動きができていなければ、おそらくプレー続行は不可能だったはずだ。
金本は'05年のホークス戦でも頭部に死球を受けている。本人の記憶では今シーズンの木佐貫からのものも含め、4回、頭に食らっているという。普通、それだけ頭に死球を受けたら、踏み込んでいく姿勢にはためらいが出るだろう。
ところが金本は、死球後の打席の成績が抜群なのだ。タイガースに移籍してからのデータでは、実に4割以上の打率を残している。
これは闘志と同時に、死球によるダメージを少なく抑える技術を金本がしっかり身につけている証拠だろう。
体に近い投球の避け方を見ても、つねに投手と反対の方向にうまく体をひねっている。これは打球を避けるときの基本中の基本だが、わかっていても、打つときに踏み込まねばならない打者にとって、そう簡単にできることではない。強打者ほどしっかり投手方向に踏み込むので、おのずと死球は多くなり、ダメージも大きくなりやすい。ところが金本は矛盾していることを、打席の中でしっかりやってのけているのだ。
(続きは Number713号 で)