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岩隈久志 「さまよえるエースの完璧な帰還」 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/01/06 00:00

岩隈久志 「さまよえるエースの完璧な帰還」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

新生球団のエースとして期待されながら、3年間もがき続けた投手が、
今シーズン完全復活を果たし、21勝4敗の驚異的な成績を収めた。
かつての球威を失いつつも、理想の投球に近づいた彼の進化を探る。

 「違う」の中の「違う」。

 今季、21勝を挙げた楽天の岩隈久志を簡潔に言い表すならば、そういうことになる。21勝以上をマークしたのは、'85年の阪急の佐藤義則(楽天投手コーチ)以来、23年ぶりのことだ。'85年と言えば、日本中が阪神の史上初の日本一に沸いた年でもある。

 春先、久米島キャンプで見た岩隈は決して万全ではなかった。

 「まだ、バランスが取れてなかったですね。特に変化球でストライクが取れなかった」

 だが、そんな状態にあっても、スーパールーキーの田中将大はこうもらしていた。

 「一人だけ違う真っ直ぐ、投げてますよ」

 単に球速を比較するだけなら田中も引けは取らない。だがそこには、次元が違う、そんなニュアンスが漂っていた。

 そもそもプロ野球の世界は「違う」の集まりだ。その中でもすこぶる付きの田中をして、そこまで言わせる岩隈と他の選手との差異はどこにあるのか。

 素人目にも、岩隈の突出した才能を実感できる点が一つだけある。それは体格だ。190cm、90kgの堂々たる体躯は、威容と表現したくなるほど圧倒的だ。長身の日本人にありがちな、体型のアンバランスさや、ひょろりとした印象がまったくない。

 容積が大きくかつ均整のとれたこの体を持て余すことなく使い切り、わずか直径約7cm、重さ約145gのボールを投げることができたなら。確かに次元の異なる軌道が生まれてきそうな気がする。

 岩隈とコンビを組む捕手の藤井彰人が興味深い話をしていた。楽天の練習場に隣接するクラブハウスの中には本格的なダーツマシンが置いてあるのだが、岩隈がそのダーツをしていると、こんな錯覚に陥るのだという。

 「お前ちょっとライン……あ、出てないわ、って。それぐらい前から投げているように見える。僕(身長170cm)のリリースポイントと比べたら、こんぐらいちゃうと思う」

 藤井は両腕をいっぱいに広げる。

 「背は高い、腕は長いというだけで打者からしたら相当近くに感じますからね。しかも腕がしなって出てくるから見づらい。1年間通したら、コースだけなら岩隈クラスでも甘い球なんてナンボでもある。でもタイミングが合わないんですよ」

 岩隈の出現はセンセーショナルだった。堀越高校を卒業し、2000年、ドラフト5位で近鉄に入団。プロ入り2年目に4勝を挙げ頭角を現すと、'03年、 '04年は2年連続で15勝を挙げる。'04年には開幕から12連勝という快記録も達成した。ゆったりとしたフォームから弾かれるMAX153kmの真っ直ぐは圧巻のひと言だった。

 そんな岩隈が低空飛行を始めたのは、'05年、楽天誕生と同時に同球団に移ってからのことだ。近鉄時代の晩年に痛めた肩の影響で、移籍1年目は9勝どまり。そんな故障に追い討ちをかけるように、翌年、2段モーションが禁止になった。岩隈の代名詞でもあった足の上げ下げを二度繰り返す独特のフォームは真っ先にその対象となった。

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