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市民ランナーが世界陸上選手権へ!
第5回東京マラソンで起きた奇跡。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byShiro Miyake

posted2011/02/28 12:15

市民ランナーが世界陸上選手権へ!第5回東京マラソンで起きた奇跡。<Number Web> photograph by Shiro Miyake

レース直後、車いすで医務室へ運ばれた川内優輝。表彰式までには回復し、「(レース後は)いつも死んでもいいと思っています!」と話した

「おおーっ」

 周辺から、声と拍手が起こる。

 新宿駅東口エリアと歌舞伎町を隔てる大通り、靖国通り沿いに待ち受けていた大勢の観衆から、ガード下を抜けて現れた大集団への歓声である。

 靖国通り沿いにかぎらない。コース沿道のあちこちで多くの人々が声援を送る姿は、お祭りやパレードなどを楽しんでいるような華やかな賑わいであった。

 2月27日、第5回を迎えた東京マラソンは、今年も活況を呈して終わった。参加したのは招待選手や9倍を超える抽選を経て出場した一般ランナーら約3万6000人。

 数十人規模から始まったニューヨークシティマラソン、数千人規模で始まったロンドンマラソンが徐々にスケールアップしたのと違い、東京マラソンは第1回から約2万6000人が参加する大規模な市民開放型マラソンとして始まった。

 新宿を起点に、銀座や浅草といった東京の名所を通るコースである。

 当初は都心部の交通を長時間遮断することの是非、参加者の残すゴミやマナーの問題なども指摘されたが、回を重ねるごとに問題への対処がなされ、毎年の盛り上がりとともに定着してきた感がある。

 2010年には、国際陸上競技連盟によるロードレースの格付けで「ゴールド」と最高位の認定を受けてもいる。

 今秋、大阪と神戸でマラソン大会が始まり、その他各地でも新たに大会が始まるが、東京の成功が引き金になっている。

県立高校の事務職員が日本代表のマラソン選手として世界へ!

 この数年市民ランナーが増加の一途をたどり、ランニングは一大ブームとなっているが、その理由のひとつとして東京マラソンの存在は無視できない。

 第5回大会は、そうした点から見てとても象徴的な大会ともなった。

 今大会は、夏に韓国で行なわれる世界選手権の男子代表の選考大会でもあったが、見事内定を勝ち取ったのは市民ランナーの23歳、川内優輝だった。

 川内の所属は埼玉陸協。つまり実業団には所属しないランナーである。

 学習院大学では、学連選抜のメンバーとして箱根駅伝にも出場したことのある川内。卒業後、埼玉県立春日部高校の定時制で事務職員としてフルタイムで働きながら、練習に取り組んできた。

 今回の東京マラソンは自身6度目となるフルマラソン。自らを「日本のエリート育成システムの落ちこぼれ」と語る川内は、午前中の2時間だけを練習にあて、他の時間は公務員として普通に働いてきた。主な練習場は駒沢公園。1周2.148kmの周回コースを20周走ってマラソンの感覚を養ってきたという。

【次ページ】 40kmを過ぎてからは出場選手最高タイムをマークした。

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川内優輝

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