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2026年の新レギュレーションに“見直し派”が現れたわけ…本田宗一郎は89年の“ホンダつぶし”に「バカなやつらだ」と笑った
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2025/04/25 11:04

89年のマクラーレン・ホンダはアラン・プロストとアイルトン・セナを擁して16戦中10勝。プロストがドライバーズタイトルを獲得した
21年限りでF1参戦を終了したホンダが再参戦する最大の理由は、この電動パワーが50%に引き上げられたことに魅力を感じ、挑戦しがいがあると判断したからだ。新規参入してくるアウディも同様の立場だろう。21年以来、5年ぶりのコンストラクターズチャンピオンを目指すメルセデスは、すでに新しいレギュレーション導入に向けて多くの資金と技術を注入し、開発面で一歩リードしていると言われている。
このまま新しいPUが導入されれば、現在のPUが導入された14年から数年間、メルセデスが勝ち続けたときと同じような状況が起きるかもしれない。ホーナー代表はそう警鐘を鳴らすことでレギュレーションを変更し、不利な現状を打開しようと目論んでいるのかもしれない。
本田宗一郎の胆力
このような状況を眺めていると、80年代後半のF1を思い出す。
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当時はホンダのターボエンジンがレースを席巻していた。そのため、国際自動車連盟(FIA)は1988年限りでターボエンジンを禁止し、89年から自然吸気エンジンを復活させる決定を下した。
だが、80年代前半にルノー、BMW、ポルシェが勝ち続けたときにターボが禁止されることはなかった。事実上の「ホンダつぶし」に異議を唱えたホンダの代表に、当時FIA会長を務めていたジャン=マリー・バレストルは「F1にイエローはいらない」と屈辱的な言葉を浴びせた。
やりきれない思いを抱いたホンダのエンジニアは、撤退すべきという思いを伝えようと創業者の本田宗一郎のもとを訪れた。
部屋に入るなり、宗一郎のほうからこう切り出してきた。
「F1でターボが禁止されるらしいが、それはホンダだけなのか?」
エンジニアが「違います」と返答すると、宗一郎はこう言って笑った。
「バカなやつらだ。ホンダだけを規制するなら賢いが、同じルールでなら、どんなルールでもホンダが一番いいエンジンを作るんだからな」
それを聞いたエンジニアはそれ以上なにも言わずに部屋を出て行き、F1活動を続けるべく開発を続けた。ホンダは自然吸気エンジンとなってからも勝ち続け、91年までF1界に君臨した。
権力を持つ者に弱者がすがりつき、結託してルールを歪曲化しようとするのは今に始まったことではない。問題を引き起こすのはルールではなく、それを悪用する人々だ。ただし、ルールがどのように適用されようとも、いつの時代も優れた技術が勝ち残ることに変わりはない。
