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「やっぱり甲斐さんの準備力というか…」甲斐拓也は巨人に何をもたらしたのか? 阿部慎之助監督も絶賛する攻守の存在感「他の打者も真似してほしい」
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鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/04/21 17:04

今季から巨人に加入した甲斐拓也捕手。開幕から攻守ともに影響力を発揮している
「中尾さんは『大丈夫! お前の球威だったらこの辺でいいから』って、インコースでもギリギリを狙わせるんじゃなくて甘く構えてくれた。そうやってしつこく、しつこく内角球を要求してくれたんですよね」
結果的にこの中尾のリードで斎藤はインコースを大胆に使えるようになって、投球の幅は大きく広がり、投手として一皮剥けるきっかけを得ることになる。中尾が移籍してきた89年シーズンには、伝説の11連続完投勝利というとてつもない大記録を達成し、初の20勝をマーク。「平成の大エース」への第一歩を踏み出すこととなったのである。
中尾のリードはそれまでの捕手とどこが違ったのか? 改めて斎藤さんに問うた答えはこうだった。
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「やっぱり巨人で育ってきたキャッチャーは伝統的にオーソドックスというか、安全なリードを教わってきていたと思うんですよね。それは悪いわけではないし、むしろそれが基本型ですから。そういう意味では中尾さんの大胆に内角を使う配球は、今までの巨人のキャッチャーのリードとは一味も二味も違っていたと思います」
巨人の捕手はV9時代の森昌彦(現祗晶)捕手をお手本に、伝統的にオーソドックスな危険を避けるリードが受け継がれてきたという歴史的背景もある。言い方を変えれば、それまでの巨人のキャチャーは打たれないことを重視して「ここは危ない」「この球種は危険だ」と引き算で配球を組み立ててくる傾向にあった。しかし中尾は投手の良さをいかに引き出して抑え込んでいくか、斎藤で言えば「圧倒的な球の力とカーブのキレを生かすにはどうしたらいいか」という足し算でリードをする捕手だった。
甲斐もまた、そんな足し算のリードができる捕手なのである。
現在、巨人で一軍に登録されている大城卓三捕手も、岸田行倫捕手も、基本的には伝統的なリードの流れを受けて育ってきた安全型の配球をする捕手と言えるだろう。一方で阿部慎之助監督の現役時代は、そうした巨人の捕手の王道とは外れた足し算のリードをする捕手だった。
甲斐が振り返るセ・リーグの開幕1カ月
だからこそ阿部監督が甲斐の捕手力を強く買って、フリーエージェントとなると補強を強く望んだとことにも頷ける訳だ。