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「悪形だが…藤井の金が有効に」なぜ永瀬拓矢32歳は評価値リードも「指しやすい局面がなく」藤井聡太22歳に屈したか〈王将戦・元A級棋士の視点〉 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph by日本将棋連盟

posted2025/01/16 06:01

「悪形だが…藤井の金が有効に」なぜ永瀬拓矢32歳は評価値リードも「指しやすい局面がなく」藤井聡太22歳に屈したか〈王将戦・元A級棋士の視点〉<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太七冠に永瀬拓矢九段が挑む王将戦。第1局は静岡県掛川市で開催された

「藤井さんとのタイトル戦で、2日制の対局は初めて。私とは経験値が違いますし、これまで藤井さんとの2日制のシリーズを制した棋士はいません。しかし、誰かが突破口を開かねばならないと思っています」

 藤井と永瀬の公式戦の通算成績は、王将戦の開幕時点で藤井の18勝7敗。そのうちタイトル戦の勝敗は、藤井から見て次の通り。

 第93期棋聖戦(22年6月~7月)●〇〇〇 ※第2局・第4局は永瀬が先手
 第71期王座戦(23年8月~10月)●〇〇〇 ※第2局・第4局は永瀬が先手
 第72期王座戦(24年9月) 〇〇〇 ※第1局・第3局は永瀬が先手

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 通常は先手番の方が少し有利だが、永瀬は藤井とのタイトル戦、先手番で6連敗している。ただ内容的には終盤まで優勢だったという。つまり最終盤で間違えなければ、タイトル獲得は十分に可能であった。

突然の端攻めに、藤井は長考を重ねた

 王将戦第1局の前日の1月11日、両対局者は会見で次のように語った。

「一手一手の読みを深く入れて、内容の充実した将棋を指せるように全力を尽くしたい」(藤井)

「七番勝負の長丁場で藤井王将と対局したいと思っていた。記憶に残る番勝負にしたい」(永瀬)

 王将戦第1局では「振り駒」が行われ、永瀬の先手番に決まった。持ち時間は各8時間。

 永瀬の初手は飛車先の歩を突く▲2六歩。藤井の2手目が注目されたが、同じく△8四歩だった。両者は飛車先の歩を伸ばし、「相掛かり」の戦型になった。いろいろな手法があるが、永瀬は飛車で7筋の歩を取る順に進めた。同一局面の実戦例が1局だけあり、以降はまったく違う展開となった。

 永瀬は駒組みが半ばの局面で、1筋から突然の端攻めで仕掛けた。短時間の着手で研究範囲なのだろうか……。藤井は意表を突かれたようだが冷静に対処した。永瀬は香交換すると、その香を中段に打って攻めた。さらに左右の桂を五段目にともに跳ねた。迫力のある攻めだった。藤井は63分、90分、50分と長考を重ね、受け方に苦慮した。

評価値でリードも“藤井の懐の深さ”に攻めあぐみ

 AIの形勢評価値は、永瀬の50点台に藤井の40点台がずっと続き、永瀬が有利と思われた。しかし、難しい変化があって簡単ではなかった。実際に永瀬は、終局後に「指しやすいと思った局面はなかった……」と語った。

【次ページ】 「壁金」は悪形だが、指し手が進むにつれて…

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