将棋PRESSBACK NUMBER

「悪形だが…藤井の金が有効に」なぜ永瀬拓矢32歳は評価値リードも「指しやすい局面がなく」藤井聡太22歳に屈したか〈王将戦・元A級棋士の視点〉

posted2025/01/16 06:01

 
「悪形だが…藤井の金が有効に」なぜ永瀬拓矢32歳は評価値リードも「指しやすい局面がなく」藤井聡太22歳に屈したか〈王将戦・元A級棋士の視点〉<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太七冠に永瀬拓矢九段が挑む王将戦。第1局は静岡県掛川市で開催された

text by

田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

PROFILE

photograph by

日本将棋連盟

 2025年のタイトル戦は、藤井聡太王将(22=竜王・名人・王位・棋王・王座・棋聖と合わせて七冠)に永瀬拓矢九段(32)が挑戦するALSOK杯第74期王将戦七番勝負で始まった。過去3回のタイトル戦で、数々の盤上ドラマを生んだ現棋界の最高カードだ。第1局は1月12、13日に静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」で行われ、藤井王将が永瀬九段の攻めをかわして先勝した。この1局の模様と背景を、順位戦A級在籍経験のある田丸昇九段が解説する。

新しい藤井将棋を見られるかも…と期待できるコメント

 藤井七冠は新年の各社インタビューで、「総合的な形勢判断力、未知の局面への対応力を磨きたい。その上で、今まで指していない戦型についても機会があれば試したい。新しいことに挑戦していくことを恐れず、実力を高めていけるように取り組んでいく」と、2025年に臨む率直な心境を口にしている。

 藤井は2016年12月にデビューして以来、8年間で約470局の公式戦のうち後手番は約230局。その2手目はすべて飛車先の歩を突く△8四歩だった。

ADVERTISEMENT

 通算勝率が8割台の藤井といえども、昨年は後手番で7割を切っていて、後手番での指しにくさを示している。それに関連して「2手目の△8四歩にこだわりがあるわけではない。面白いと思ったら別の手にチャレンジしたい」と語って注目された。つまり角筋を開ける△3四歩もあるというわけだ。この言葉からも、新しい藤井将棋を見られるかもしれないという期待が高まる。

 一方の永瀬九段は24年9月に藤井王座に挑戦して3連敗で敗退すると、「藤井さんに勝つには、精神的な強さが大事だと以前は思った。しかし、これからは将棋だけに没頭して漆黒の世界に浸るしかない」と、専門誌の取材に対して重大な決意を語っている。

永瀬は先手番で6連敗も、終盤までは優勢だった

 その後は睡眠時間を削り(1日平均5時間)、残り時間の大半を練習将棋(同4、5局)に当てた。それらの棋譜はAI(人工知能)に分析させ、より深く研究した。まさに将棋漬けの日々をずっと続けてきた。年末年始も休むことなく、棋士や奨励会員を相手に指した。あるA級棋士は「序盤の研究精度がさらに高まり、力戦への対応がとても正確だと感じています」と、永瀬将棋を称賛している。

 永瀬九段は藤井王将との対戦について、次のように力強く語った。

【次ページ】 突然の端攻めに、藤井は長考を重ねた

1 2 3 NEXT
#藤井聡太
#永瀬拓矢

ゲームの前後の記事

ページトップ