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元ヤクザ、少年院出身、“入れ墨”を消してリングに…平成ボクシングの異端児・大嶋兄弟の現在「撮りたくなる魅力が2人にはあった」
posted2025/01/27 11:06
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph by
Ohshima brothers
引退後、大嶋宏成の体重は30キロ近く増加した。
年間600杯ラーメンを食べ歩き、体が毎日アルコールを求めた。強面の刑事やヤクザ役でドラマや映画、音楽のプロモーションビデオの配役も与えられた。舞台では主役を務めたこともあり、映画出演作も14を数える。だが、いずれも心の底から熱くなれる世界ではなかった。
「30歳で引退して、以降の6年間は生きているのか死んでるか分からないような生活。リングの上での注目を浴びた感覚は麻薬のようにずっと体から消えない。自分が何がやりたいか定まらなくて、考えるのが嫌で酒に逃げていました。悶々とした感情は膨らむ一方で、その解決策が一向に見つけられなかった」
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今でこそセカンドキャリアという言葉があるが、当時はまだそんな概念が希薄だった。宏成の言葉で気付かされたが、ボクシング界はよりその傾向が顕著でもあった。夜な夜な彷徨うように街を歩く日々で見つけた答えは、気心の知れた仲間が集まる場所を作りたい、という原点に立ち返ることだった。
「店をやらないか」転機は居酒屋経営
引退後に住まいを移した上井草にあるテナントが立ち退くことになり、「店をやらないか」と誘いを受ける。即決だった。カウンターでお客さん同士の温度が分かる店。それが、宏成の目指す飲み屋の形でもあり、立地や広さが理想の条件のように思えたからだ。
粋でありたいという願いをこめて、店名は「いきや」とした。
地域密着型を掲げた店舗は、次第に軌道に乗りはじめる。今年で13年目を迎えたが、有名な世界チャンピオンらボクシング関係者が気軽に足を運ぶ“聖地”となった。内藤大助や内山高志、西岡利晃、亀田興毅、ガッツ石松らの元世界王者や、現役の世界チャンピオンも気軽に訪れる。店の壁には俳優や著名なマンガ家が直接記したサインが連なっている。
著名人や地元住民などの垣根がなく、仲間の輪が広がる場所を作ること。それが宏成の目指した形だったのだ。