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元ヤクザ、少年院出身、“入れ墨”を消してリングに…平成ボクシングの異端児・大嶋兄弟の現在「撮りたくなる魅力が2人にはあった」 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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photograph byOhshima brothers

posted2025/01/27 11:06

元ヤクザ、少年院出身、“入れ墨”を消してリングに…平成ボクシングの異端児・大嶋兄弟の現在「撮りたくなる魅力が2人にはあった」<Number Web> photograph by Ohshima brothers

元祖・入れ墨ボクサーとして名を馳せた大嶋宏成(右)と、その背中を追いかけてプロボクサーになった大嶋記胤

 2023年、宏成は「いきや」の隣に立ち食い蕎麦屋の「とらや」をオープンさせた。YouTube活動や俳優業に加え、講演活動も行う。空白の6年間を経て、実業家としての顔もすっかり板についてきた。

 昨年8月には24歳下の女優・吉田美佳子(25歳)と入籍した。現役時代の後援者の一人であった芸能事務所の社長の紹介で知り合い、長年の友人関係から交際に発展したという。

 すっかり飲み歩く機会も減り、結婚後は体重も10キロ以上落ちた。家庭を重んじ、健康に気を使うようになった変化に、自身が最も驚きを感じている。

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 一方で辛い別れもあった。引退後を含めると、30年近く濃密な関係が続いていたシャイアン山本が65歳で鬼籍に入った。トレーナーと選手という師弟関係が明確な立場にありながら、宏成の趣味である競馬を教え、酒場でくだらない話で盛り上がれる友人でもあった。

「もしボクシングに出会わなければ…」

 大嶋兄弟の土台は、ほとんどがボクシングにより形成された。今はボクシング界とは距離がある。だが、将来的にはプロを目指すボクサーを育てたいというのは変わらぬ思いだ。そこにはシャイアン山本と自らの姿を重ね合わせている部分もあるのだろう。

「いつの時代も俺達みたいな子っていると思う。有り余るエネルギーをどこにぶつけていいか分からない、というようなね。そういう理由でプロを目指す選手がいてもいい。正直、現役時代に悔いはあります。なぜ俺はチャンピオンに届かなかったのか、と。ただボクシングはそれが全てではない。『プロを育てたい』と今でも思うのは、シャイアンと俺のような関係があってもいいと心の底で思っているからかもしれませんね」

 もしボクシングに出会わなければ――。最後にそう尋ねると宏成は豪快に笑い飛ばす。

「いやー、今頃は刑務所の中でしょうね」

 記胤もこう続けるのだった。

「刑務所の中……かもしれませんね」

 リングの熱狂に魅せられ、ボクシングでしか満足のいく自己表現が出来なかったことは、兄弟で通じていた。時代は令和に移ろい、大嶋兄弟のようなボクサーは絶滅危惧種なのかもしれない。しかし、2人にとってはチャンピオンベルトよりも価値があったかもしれない人との縁も、ボクシングを通じて得た賜物であることも事実である。それは、幼き頃からただ純粋に追い求めた兄弟の願いでもあった。

【次ページ】 大嶋兄弟を撮り続けた写真家の言葉

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