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「青木さんの笑顔が見れるなんて…」“高校サッカー最大の誤審”の審判が22年越しの謝罪…作陽“幻のVゴール”青山敏弘が「もう十分」と涙した理由
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2025/01/20 11:03
笑顔で22年ぶりのコイントスを行う主審・青木隆さん
「あの幻のゴールの価値をどう色付けられるか、肉付けられるか。それはプロになってからの僕の活躍次第だと思っていた。あの出来事から、プロに入った時に初めてのゴールの副審が青木さんで、運命的なものを感じた。そしてあのメンバーで今日の引退試合が実現し、笛を青木さんが吹く。すべてが僕にとってかけがえのない価値だし、青木さんに対してもずっと感謝の念を抱いていますよ。これからも周りの方はいろいろ言いますが、どれも表面的なものであって、その内側は本当に僕らにしか分からないものがある。
青木さんは審判である前に教育者じゃないですか。だから、間違ったことに対して、間違ったと言えるのは、本当に素晴らしいことだと思う。あの当時はおそらくいろんなことが関係して言えなかったのだと思うのですが、今日、青木さんが22年間思っていたことがしっかりと伝わったので……それでもう、十分ですよ」
22年後の本音だった。
「やって良かったと心から思えた」
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青木に声をかけた野村も噛み締める。
「水島工業の選手たちがそれぞれの家に帰ってなんて言っているかな。『全然動けなかったけど、行って良かったな〜』とか言っているといいなあ。自然治癒はしないけど手術して良くなった。でも手術痕は消えない。まさにそういうことだと思う。これでタブーだったものが、タブーではなくなった。青木さん自身も楽しかったなと思っていてほしい。今日、青木さんが走って笛を吹く姿、その後の笑顔、胴上げする時の両チームの選手の表情を見て、やって良かったと心から思えました」
大役を務めた青木は、グラウンドの傍にあるスタッフルームで分厚いファイルを取り出した。当時の新聞の切り抜きや協会への報告書、自らの日記などをまとめた一冊だった。