箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根駅伝「青学大の山が強すぎる」問題…「平地は全く走れなくなる」選手が語った“特殊区間への覚悟”それでも「山に懸ける想いがあれば…」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJMPA
posted2025/01/04 11:03
ともに区間新記録をマークし、青学大の連覇に貢献した5区の若林宏樹(左)と6区の野村昭夢。なぜ青学大は毎年、山区間を「外さない」のだろうか?
4区の太田蒼生(4年)から小田原中継所で襷を受け取った時、トップを走る中央大に45秒差の後れをとる2位だった。ただ、それでも若林は冷静だった。抱え込むような両腕の振りで力強く急坂を攻める。群衆ひしめく宮ノ下の温泉街を過ぎた9.5kmで中央大の園木大斗(4年)をとらえ、置き去りにした。瞬く間に首位交代を果たすと、あとは苦悶の表情を浮かべながらも、芦ノ湖のゴールに1歩ずつ進むだけだった。
「後半は全く記憶になくて……。沿道で『若林さん、ありがとう』って言葉が非常に多くて、本当に終わりなんだなって実感が湧きました」
区間新の1時間9分11秒は、卒業後に競技の第一線から退く若林にとって最高の“ラストラン”になった。高低差800m以上を一気に駆け上がる20.8kmには、若林が歩んできたすべてが詰まっていた。
ADVERTISEMENT
競技人生において「山はどんな存在でしたか」と聞くと、言いよどむことなく答えた。
「頂点ですね。陸上をする上での最終目標が『山』で、そこで輝きたいと思って走り続けたこの10年間だったので。それ以上はないかなと思ってます」
高校時代から「目標は箱根の山」だった若林
和歌山県海南市で育ち、かけっこを始めたころから山が近くにあった。体重が軽かったこともあり、駅伝では坂道がある区間を任されてきた。
「中学校はほとんど妄想みたいな感じだったんですけど、陸上で高校に入ると決めた時に、目標は、箱根駅伝、そして山だと思っていました」
京都・洛南高に進学後、山上りの練習メニューではライバルたちに先行した。
小柄でも自分らしさを発揮できる居場所を見つけた。だから、箱根駅伝のテレビ中継を見れば、山を駆ける姿に心を奪われていった。
青学大に入学した若林には山に挑む覚悟があった。4年間でもっとも取り組んだという練習メニューに意志の強さが滲む。
「筋力トレーニングが一番かなと思います」
ほんわかした口調がこの時ばかりは一転、きっぱりと言い切る。
「山はパワーとメンタルです。5区で最後の追い込みとなる、小涌園から動く選手と動かない選手の差って、体つきができているかできていないかだと思います」